ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

 水島白乃(しの)

 俺の前年度の教え子。
 温和で、穏やかで、素直で、感情がわかりやすい。

 だから——

 水島が俺に好意を持っていたことは、ずっとわかっていた。
 わざと目を逸らしたり、近づこうとすると逃げたり。

 教師だった頃の俺は、理性的でいようと徹底していた。

 俺が教師になった理由——

 それは、親がともに教員で、その道を半ば強制されたからだ。
 反発する気力もなかった俺は、ただその流れに身を任せた。
 笑顔という仮面の下で、ずっと足りない“何か”を探していた。

 ——そんなある日、親が勝手に決めた見合い話が持ち上がった。

 今までは適当にごまかしてきたが、それも限界がきていた。
 諦めて、その女と付き合うことにした。
 相手は俺を気に入り、結婚するつもりでいる。

 容姿も教養も性格も申し分ない。
 俺も、このままその流れに身を任せようとしていた。

 ——その日は、放課後、誰もいない教室でぼんやり外を見ていた。

 その時、教室に誰かが入ってきた。

 水島だった。

「あ、夏雄先生、お疲れ様です……」

 水島は相変わらず目を合わせようとせず、自分の席に向かって忘れ物を取る。

 帰ろうとしたその瞬間——

 椅子に足を引っかけて、転んだ。
 ドジな奴だな、と思いながら手を差し伸べようとすると、水島は床に倒れ込んでいた。

「すねを打ちました……」

 半泣きだった。

 笑いそうになったのに——

 なぜかその瞬間、心臓が強く脈打った。
 今でもその感情がなんだったのか、よくわからない。
 ただその無防備な姿を見て、たまらなく欲しくなった。

 その時は、自分の感情を押し殺して水島を見送った。
 でも、あの時の表情や倒れ込んだ姿は、ずっと脳裏に焼き付いた。

 それからというもの、自然と目で追うようになっていた。
 気づいた水島は戸惑っていた。
 でも、その戸惑いすらも、俺の中の“何か”を満たしていた。

 この感情が何なのか、今もはっきりとはわからない。

 ただ、ひとつだけ確かなことがある。

 ——俺は、水島を手に入れたいと思っていた。

 あの日から、ずっと。