ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

 ──その夏

 梅雨が明けたばかりの七月の午後、蝉の声が校舎に響いていた。
 私は母校に用事があって、卒業した高校を訪れた。
 OGとして部活の後輩たちを見に行く——それは建前で、本当は別の理由があった。

 卒業してから数ヶ月、大学生活に慣れてきた頃になって、ふと高校時代の記憶が蘇るようになった。
 数ヶ月ぶりに足を踏み入れた校舎は、懐かしい匂いがした。
 制服姿の生徒たちを見ると、通り過ぎた青春が少し蘇る。

 私は、担任だった夏雄先生のことが好きだった。
 でも、想いを伝える勇気はなかった。
 女子に人気があって、ほとんど話すこともできなかった。
 話す勇気すらもなかった。
 卒業と同時に、その事は思い出として心にしまおうとした。

 ただ──ときどき感じる先生の視線に、不思議な違和感があった。
 何かを見定められているような。

 ──その時、職員室から誰かが出てきた。

 夏雄先生だった。
 あの頃とほとんど変わらない姿。
 そして、目が合った。

「水島……?」

 私の心臓は、信じられないくらい跳ね上がった。

「久しぶり……今日はどうした?」

 穏やかな顔で尋ねてくる先生。

「えーと……部活の後輩を見にきました」

 緊張で、思わず目を逸らしてしまった。

 先生がこちらに歩いてくる。
 一歩ずつ。

 その時、足がすくんだ。
 まともに話したこともない先生。
 どう接していいのかわからなくて、少し怖かった。

「なんで目を逸らすの? 前もそうだったよね」

 声のトーンが少し低くなる。

「き、緊張しちゃうんです」

 先生はすぐ目の前まで来ていた。

「もしかして……俺のこと好きだった?」

 カーッと顔が熱くなる。
 なんて答えればいい?
 本当のことを言ったら、先生はどんな反応をするんだろう……?

 何も言えずに目を泳がせていると、先生はどこか含みのある笑みを浮かべた。

「俺はずっと見ていたよ」
「え…?」

 顔を上げた時には、先生はもう通り過ぎていた。
 そして、ふいに振り返ってこう言った。

「その白いレースのワンピース、似合うね」

 そう言い残して、校舎の外に消えていった。

 私はあの瞬間、先生に心を囚れてしまったのかもしれない。