とある男子高校生の日常

俺も、動けなかった


「……ありがとう」


かすれた声


「当たり前だ」


そう言ってしまった自分に、少し驚く


「当たり前じゃないよ」


彼女は顔を上げる


目が、真っ直ぐ俺を見ていた


「黒瀬くん、怖かったでしょ」


否定しようとして、やめた


「……怖かった」


それが本当だった


彼女は少し笑ってから、俺の袖を掴んだ


ほんの一瞬


でも、はっきりと分かる温度


「離れないで」


その言葉が、命令みたいに胸に刺さる


俺は答えの代わりに


彼女の前に立った


「俺がいる」


それだけで、十分だった


この瞬間、理解した


感情を切り捨てることで


守れなかったものがある


感情を受け入れることでしか


守れないものもある


——彼女は、その一つだった