1. 天空の檻、静寂のラグジュアリー
モルディブの朝は、あまりにも残酷な美しさを湛えていた。
昨夜、海底レストランという「蒼い監禁室」で駿さんの執着に溺れ、明け方まで甘美な尋問(愛撫)を受けていた私は、重だるい身体を引きずるようにして、島で最も高い場所に位置するプライベート・エステ棟へと連れてこられた。
そこは、四方をエメラルドグリーンの海に囲まれ、天空に浮かんでいるかのような錯覚を覚える全面開放型のパビリオンだった。心地よい潮風が白いシルクのカーテンを揺らし、高台ゆえに外界からの視線は一切届かない。
中央には、並んで置かれた二台のマッサージベッド。そして室内を支配しているのは、駿さんがこの日のために自ら調香したという、最高級のホワイトジャスミンと白檀(サンダルウッド)のアロマだった。
「……駿さん、ここは……?」
「ハネムーン四日目。昨夜までのお前の『頑張り』を労うための、特別なトリートメントだ。……凛。今、この島には、俺たち二人以外の人間は誰一人として存在しない。スタッフはすべて本土へ帰した。つまり、これから行われるすべての行為は、神と、海と、俺の鼓膜だけが知る機密事項になる」
駿さんは、普段の完璧な三つ揃いのスーツを脱ぎ捨て、リネン素材の白いシャツを無造作に羽織っていた。その胸元からは、鍛え上げられたしなやかな大胸筋が覗き、朝の光を浴びて神々しいほどの色気を放っている。
「……トリートメントって、エステティシャンの方はどうされたんですか?」
「いないと言っただろう。……俺がやる。……お前の肌に、俺以外の指先を触れさせるなど、万死に値する行為だと思わないか? お前という最高級の楽器を調律できるのは、世界で俺一人だけでいい」
(……出た。駿さんの独占欲が、朝からフルスロットル……! でも、駿さんの手でマッサージなんて、リラックスどころか心肺停止して召される自信しかないわ……!)
2. 執着の指先と、検品の始まり
駿さんの冷徹ながらも熱を孕んだ指示に従い、私は備え付けられたシルクのローブに着替え、マッサージベッドに俯せになった。さらりとしたシーツの感触が肌に心地よいが、背後に立つ彼の気配を感じるだけで、背筋に電流のような甘い震えが走る。
「……さあ、検品(トリートメント)を始めようか、凛」
駿さんの低く響く声と共に、彼の手が私の肩に置かれた。それと同時に、彼の手のひらで温められたオイルが、背中にゆっくりと、糸を引くように垂らされる。
熱い。……体温よりもわずかに高い温度のオイルが、背骨のラインを伝って腰へと滑り落ちていく感覚に、私は思わず指先を丸めた。
「……っ、ん……あ……」
「声を殺すな。……お前のその、抑えきれない吐息が、俺の指先の感覚を研ぎ澄ませるんだ。……凛。お前の肌は、三年前の面接の時から、俺の想像通りの質感をしていた。吸い付くように白く、俺の熱をどこまでも吸い込む、至高の素材だ。あの時、お前の履歴書を見ながら、俺がどれだけこの瞬間を空想していたか、お前には想像もつかないだろうな」
駿さんの大きな手が、私の肩甲骨のキワから腰のくびれにかけて、深い圧をかけながら滑っていく。それは単なるマッサージではなかった。
彼の手は、私の身体の起伏を隅々まで確認し、筋肉の緊張を解きほぐすフリをしながら、執拗に、そして愛おしそうに私の「輪郭」をなぞっていく。
「……駿さん、そこ……くすぐった……い、です……っ」
「くすぐったい? 違うな。……そこは、お前が俺の声に最も過敏に反応するポイントだ。昨日、海底でお前に囁いた時も、ここをピクリと震わせていただろう? お前の身体の反応はすべて俺の脳内にデータとして蓄積されている。逃げ場などない」
駿さんは私の耳元に唇を寄せ、あの、世界中のリスナーを溶かしてきた「ナイト」の、至至高の周波数を放った。
『……凛。……お前、自分の肌がこんなに熱くなっているのに気づいているか? オイルの香りに酔っているのか、それとも……俺の指先に、別の刺激を求めて疼いているのか? 正直に言ってみろ』
(……ああ。この声。この手に、この声。ずるすぎる……! 私を自分の掌の上で、思うがままに転がして、その反応をサンプリングして楽しんでるんだわ……! でも、その声に脳が受理(アクセプト)を叫んで止まらない……!)
3. オイルの香りと、陥落の周波数
駿さんの手は、いつの間にか私の脚へと移っていた。
太腿の裏から、膝の裏、そして足首まで。丁寧すぎるほどの手つきでオイルを塗り込まれるたび、私の意識はホワイトジャスミンの霧の中に溶けていくようだった。
「……駿さん、もう……無理、です。身体が、溶けちゃいそうで……」
「溶ければいい。そして、俺が望む形に再構築されるんだ。凛。お前のこの、俺にしか見せない無防備な姿を、俺は三年前から執念深く夢見てきた。……防音ブースの中で、お前がヘッドフォンを耳に押し当てながら、俺の声に悶えていたあの日からな。あの時、ガラス一枚隔ててお前の乱れる呼吸を聴きながら、俺がどれだけの理性で自分を繋ぎ止めていたか、教えてやろうか?」
駿さんは、私の背中に直接唇を押し当て、背骨の一節一節を辿るようにキスを落とした。オイルの滑らかな感触と、彼の熱く硬い唇の感触。二つの刺激が交互に押し寄せ、私の脳内では「尊死」と「官能」のアラートが混ざり合って鳴り響いている。
「『……凛。……お前の身体は、今、俺が奏でる音楽に完全に同調している。心拍数、120。体温、37.4度。お前の「声」が、俺を求めて、今にも溢れ出しそうだ。ほら、もっと聴かせてくれ。俺という名の楽器に、お前のすべてを委ねろ』」
不意に、駿さんは私を仰向けにさせた。
乱れた髪がシーツに広がり、上気した頬と、彼の熱い視線に晒された、オイルで艶やかに輝く私の身体。羞恥心で目を逸らそうとするが、彼の銀色の瞳がそれを許さない。
「……駿、さん……」
「……ああ。いい声だ、凛。その、俺を誘うような……掠れた声を、もっと聴かせてくれ。お前の声を、このジャスミンの香りと共に、俺の肺の奥まで吸い込みたい。……三年前、お前の声をレコーダーで盗み聴いていた頃とは違う。今は、こうして直接お前に触れ、お前の反応をリアルタイムで支配できる」
彼は私の腰を引き寄せ、自分との間にあったわずかな隙間さえも、力強く、そして強引に埋めた。
天空のスパに、二人の重く、熱い呼吸だけが響き渡る。
海風がどれだけ吹いても、私たちの周りに充満した「狂気的な独占欲」の熱を冷ますことはできなかった。
4. 天空の楽園、永遠の契約
どれほどの時間が経ったのだろう。
駿さんの手によって、私は文字通り、身体の芯から細胞の隅々まで「検品(愛)」し尽くされていた。
マッサージベッドの上で、私は彼の逞しい腕に抱かれながら、遠くに見える水平線を眺めていた。太陽はすでに中天に昇り、海はより一層、目が眩むほどの輝きを増している。
「……駿さん。私、本当に……幸せすぎて、怖いです。こんなに、贅沢で重すぎる罰を与えられて……」
「罰ではないと言っただろう。これは、俺たちが一生かけて続けていく『共依存』という名の日常のプロローグだ。……凛。お前はもう、俺という名の檻から出ることはできないし、その権利も放棄した。だが、その檻の中は、世界で一番甘く、お前を溺愛で満たす場所だと気づいただろう?」
駿さんは私の左手を取り、太陽の光を浴びて輝く薬指のリングに、誓いを立てるように深くキスをした。
「『……凛。……お前のその「有能すぎる声」は、もう仕事のためだけに使うな。俺を喜ばせるためだけに、俺の名を呼ぶためだけに、その喉を震わせろ。……お前の声の最初のリスナーであり、最後の所有者は、俺だけでいい。わかったな?』」
「…………はい。……部長。……私のすべてを、あなたの『声』で、永遠に塗りつぶして、ください……」
私は彼の首に手を回し、自ら唇を重ねた。
完璧なヒロイン・氷室凛。
彼女は、天空のスパという名の聖域で、ハイスペ部長の圧倒的な溺愛に身を委ね、永遠の受理(アクセプト)を誓うのだった。
ハニースイート・ハネムーン編。
二人の愛の周波数は、この楽園で、誰にも邪魔されることなく、どこまでも高く、甘く、激しく響き渡っていく。
(……受理。……はい、駿さん。私は一生、あなたの『最推しの妻』として、あなたの檻の中で爆死し続けます……!)
つづく
モルディブの朝は、あまりにも残酷な美しさを湛えていた。
昨夜、海底レストランという「蒼い監禁室」で駿さんの執着に溺れ、明け方まで甘美な尋問(愛撫)を受けていた私は、重だるい身体を引きずるようにして、島で最も高い場所に位置するプライベート・エステ棟へと連れてこられた。
そこは、四方をエメラルドグリーンの海に囲まれ、天空に浮かんでいるかのような錯覚を覚える全面開放型のパビリオンだった。心地よい潮風が白いシルクのカーテンを揺らし、高台ゆえに外界からの視線は一切届かない。
中央には、並んで置かれた二台のマッサージベッド。そして室内を支配しているのは、駿さんがこの日のために自ら調香したという、最高級のホワイトジャスミンと白檀(サンダルウッド)のアロマだった。
「……駿さん、ここは……?」
「ハネムーン四日目。昨夜までのお前の『頑張り』を労うための、特別なトリートメントだ。……凛。今、この島には、俺たち二人以外の人間は誰一人として存在しない。スタッフはすべて本土へ帰した。つまり、これから行われるすべての行為は、神と、海と、俺の鼓膜だけが知る機密事項になる」
駿さんは、普段の完璧な三つ揃いのスーツを脱ぎ捨て、リネン素材の白いシャツを無造作に羽織っていた。その胸元からは、鍛え上げられたしなやかな大胸筋が覗き、朝の光を浴びて神々しいほどの色気を放っている。
「……トリートメントって、エステティシャンの方はどうされたんですか?」
「いないと言っただろう。……俺がやる。……お前の肌に、俺以外の指先を触れさせるなど、万死に値する行為だと思わないか? お前という最高級の楽器を調律できるのは、世界で俺一人だけでいい」
(……出た。駿さんの独占欲が、朝からフルスロットル……! でも、駿さんの手でマッサージなんて、リラックスどころか心肺停止して召される自信しかないわ……!)
2. 執着の指先と、検品の始まり
駿さんの冷徹ながらも熱を孕んだ指示に従い、私は備え付けられたシルクのローブに着替え、マッサージベッドに俯せになった。さらりとしたシーツの感触が肌に心地よいが、背後に立つ彼の気配を感じるだけで、背筋に電流のような甘い震えが走る。
「……さあ、検品(トリートメント)を始めようか、凛」
駿さんの低く響く声と共に、彼の手が私の肩に置かれた。それと同時に、彼の手のひらで温められたオイルが、背中にゆっくりと、糸を引くように垂らされる。
熱い。……体温よりもわずかに高い温度のオイルが、背骨のラインを伝って腰へと滑り落ちていく感覚に、私は思わず指先を丸めた。
「……っ、ん……あ……」
「声を殺すな。……お前のその、抑えきれない吐息が、俺の指先の感覚を研ぎ澄ませるんだ。……凛。お前の肌は、三年前の面接の時から、俺の想像通りの質感をしていた。吸い付くように白く、俺の熱をどこまでも吸い込む、至高の素材だ。あの時、お前の履歴書を見ながら、俺がどれだけこの瞬間を空想していたか、お前には想像もつかないだろうな」
駿さんの大きな手が、私の肩甲骨のキワから腰のくびれにかけて、深い圧をかけながら滑っていく。それは単なるマッサージではなかった。
彼の手は、私の身体の起伏を隅々まで確認し、筋肉の緊張を解きほぐすフリをしながら、執拗に、そして愛おしそうに私の「輪郭」をなぞっていく。
「……駿さん、そこ……くすぐった……い、です……っ」
「くすぐったい? 違うな。……そこは、お前が俺の声に最も過敏に反応するポイントだ。昨日、海底でお前に囁いた時も、ここをピクリと震わせていただろう? お前の身体の反応はすべて俺の脳内にデータとして蓄積されている。逃げ場などない」
駿さんは私の耳元に唇を寄せ、あの、世界中のリスナーを溶かしてきた「ナイト」の、至至高の周波数を放った。
『……凛。……お前、自分の肌がこんなに熱くなっているのに気づいているか? オイルの香りに酔っているのか、それとも……俺の指先に、別の刺激を求めて疼いているのか? 正直に言ってみろ』
(……ああ。この声。この手に、この声。ずるすぎる……! 私を自分の掌の上で、思うがままに転がして、その反応をサンプリングして楽しんでるんだわ……! でも、その声に脳が受理(アクセプト)を叫んで止まらない……!)
3. オイルの香りと、陥落の周波数
駿さんの手は、いつの間にか私の脚へと移っていた。
太腿の裏から、膝の裏、そして足首まで。丁寧すぎるほどの手つきでオイルを塗り込まれるたび、私の意識はホワイトジャスミンの霧の中に溶けていくようだった。
「……駿さん、もう……無理、です。身体が、溶けちゃいそうで……」
「溶ければいい。そして、俺が望む形に再構築されるんだ。凛。お前のこの、俺にしか見せない無防備な姿を、俺は三年前から執念深く夢見てきた。……防音ブースの中で、お前がヘッドフォンを耳に押し当てながら、俺の声に悶えていたあの日からな。あの時、ガラス一枚隔ててお前の乱れる呼吸を聴きながら、俺がどれだけの理性で自分を繋ぎ止めていたか、教えてやろうか?」
駿さんは、私の背中に直接唇を押し当て、背骨の一節一節を辿るようにキスを落とした。オイルの滑らかな感触と、彼の熱く硬い唇の感触。二つの刺激が交互に押し寄せ、私の脳内では「尊死」と「官能」のアラートが混ざり合って鳴り響いている。
「『……凛。……お前の身体は、今、俺が奏でる音楽に完全に同調している。心拍数、120。体温、37.4度。お前の「声」が、俺を求めて、今にも溢れ出しそうだ。ほら、もっと聴かせてくれ。俺という名の楽器に、お前のすべてを委ねろ』」
不意に、駿さんは私を仰向けにさせた。
乱れた髪がシーツに広がり、上気した頬と、彼の熱い視線に晒された、オイルで艶やかに輝く私の身体。羞恥心で目を逸らそうとするが、彼の銀色の瞳がそれを許さない。
「……駿、さん……」
「……ああ。いい声だ、凛。その、俺を誘うような……掠れた声を、もっと聴かせてくれ。お前の声を、このジャスミンの香りと共に、俺の肺の奥まで吸い込みたい。……三年前、お前の声をレコーダーで盗み聴いていた頃とは違う。今は、こうして直接お前に触れ、お前の反応をリアルタイムで支配できる」
彼は私の腰を引き寄せ、自分との間にあったわずかな隙間さえも、力強く、そして強引に埋めた。
天空のスパに、二人の重く、熱い呼吸だけが響き渡る。
海風がどれだけ吹いても、私たちの周りに充満した「狂気的な独占欲」の熱を冷ますことはできなかった。
4. 天空の楽園、永遠の契約
どれほどの時間が経ったのだろう。
駿さんの手によって、私は文字通り、身体の芯から細胞の隅々まで「検品(愛)」し尽くされていた。
マッサージベッドの上で、私は彼の逞しい腕に抱かれながら、遠くに見える水平線を眺めていた。太陽はすでに中天に昇り、海はより一層、目が眩むほどの輝きを増している。
「……駿さん。私、本当に……幸せすぎて、怖いです。こんなに、贅沢で重すぎる罰を与えられて……」
「罰ではないと言っただろう。これは、俺たちが一生かけて続けていく『共依存』という名の日常のプロローグだ。……凛。お前はもう、俺という名の檻から出ることはできないし、その権利も放棄した。だが、その檻の中は、世界で一番甘く、お前を溺愛で満たす場所だと気づいただろう?」
駿さんは私の左手を取り、太陽の光を浴びて輝く薬指のリングに、誓いを立てるように深くキスをした。
「『……凛。……お前のその「有能すぎる声」は、もう仕事のためだけに使うな。俺を喜ばせるためだけに、俺の名を呼ぶためだけに、その喉を震わせろ。……お前の声の最初のリスナーであり、最後の所有者は、俺だけでいい。わかったな?』」
「…………はい。……部長。……私のすべてを、あなたの『声』で、永遠に塗りつぶして、ください……」
私は彼の首に手を回し、自ら唇を重ねた。
完璧なヒロイン・氷室凛。
彼女は、天空のスパという名の聖域で、ハイスペ部長の圧倒的な溺愛に身を委ね、永遠の受理(アクセプト)を誓うのだった。
ハニースイート・ハネムーン編。
二人の愛の周波数は、この楽園で、誰にも邪魔されることなく、どこまでも高く、甘く、激しく響き渡っていく。
(……受理。……はい、駿さん。私は一生、あなたの『最推しの妻』として、あなたの檻の中で爆死し続けます……!)
つづく



