『氷の聖女は推しボイスに溶かされたい〜完璧な私が深夜にスパチャしている相手は、冷徹な鬼部長でした〜』

​1. 楽園の扉と、帝王の宣告
​ モルディブのターコイズブルーの海に浮かぶ、一ノ瀬家所有のプライベートアイランド。
 プライベートジェットから降り立った瞬間、南国の甘やかな香りが、私の五感を包み込んだ。足元には真珠のように白い砂浜。視界のすべてが、息を呑むほどの絶景だった。
​(……すごい。本当に夢みたい。……こんな場所で、駿さんと二人きりなんて……)
​ 私が感動に打ち震えていると、駿さんは私の腰に手を回し、そのまま抱き寄せて唇を耳元に寄せた。
「夢じゃない。……これは、お前が俺の檻(なか)で、俺の声に甘えるために用意された『現実』だ」
​ 島の中央にそびえる、ガラス張りの豪華な水上ヴィラ。
 その扉が開いた瞬間、私は自分の目を疑った。
 そこには、リビング全体を埋め尽くすほどの最新鋭の音響設備。壁には防音材が隙間なく敷き詰められ、部屋の隅々には、私たちが開発した「アロマスピーカー」の特別仕様がいくつも設置されている。
​「……駿さん……これ、ハネムーンですよね? なんでこんな、レコーディングスタジオみたいな設備が……」
 私が呆然と呟くと、駿さんは満足げに口角を上げた。
「ああ。……『ハニースイート・ハネムーン編』、第一夜の始まりだ。……今日からお前には、俺の『声』だけでイけるようになるまで、この島を出ることを許可しない」
​「……は、はいぃいいいい!?」
​ 彼の言葉に、私の血の気が引いた。
 冷徹な上司の顔でも、甘いナイトの顔でもない。
 そこには、ただ一人の女を、肉体と魂のすべてまで支配しようとする、狂気的な「帝王」が立っていた。
​2. 五感の檻、最初のレッスン
​「まず、レッスンその壱。……この部屋のアロマは、お前の心拍数と声の波形に連動して調合される。……お前が俺を求めれば求めるほど、甘く、痺れるような香りが部屋を満たす。……抗うな。お前は俺の作品だ」
​ 駿さんは私の手を取り、そのままベッドルームへと導いた。
 部屋の中央には、天蓋付きのキングサイズベッド。そして、そのヘッドボードの両脇には、まるで私を囲い込むように、特注の高性能マイクが設置されていた。
​「……な、なに、これ……」
「レッスンその弐。……このマイクは、お前のわずかな吐息も、呻きも、そして俺の名を呼ぶ掠れた声も、すべてクリアに録音し、俺の『永久保存版アーカイブ』に直接転送される。……いいな、凛。一滴残らず、俺に捧げろ」
​ 彼の言葉に、私の身体は金縛りにあったように動かなくなった。
 抵抗しようにも、彼の瞳に宿る絶対的な支配欲の前では、私の意志など塵に等しい。
 駿さんは私の白いウェディングドレスに手をかけ、ゆっくりとジッパーを引き下げた。数万個のスワロフスキーが、床に落ちて星屑のように散らばる。
​「レッスンその参。……ここは、俺とお前の聖域だ。……お前は、俺の『声』だけで、最高の快感を味わうことを学ぶ。……他のどんな音も、どんな刺激も、お前の脳から排除してやる」
​ ドレスが、音もなく床に落ちた。
 私が身につけていたのは、純白のドレスの下に隠された、真っ赤なレースのランジェリー。それは、彼が選んだものだった。私の身体が、熱く疼く。
​3. 声の調教、身体の限界
​「……凛。目を閉じろ」
 駿さんの声が、私の鼓膜を震わせる。
 私は指示に従い、ゆっくりと瞳を閉じた。
 視界が遮断されたことで、彼の声が、より鮮明に、より深く、私の脳の奥へと響き渡る。
​『……怖いか? ……心配するな。……お前は、俺の声なしでは生きられないように、三年前から調教されているんだからな。……お前の身体も、魂も、すべて俺の言う通りになる』
​ 彼の指先が、私のデコルテを優しくなぞる。
 それに合わせて、アロマスピーカーから、甘く痺れるようなイランイランの香りが立ち上った。
 
「……っ、ん……」
 
 私の身体が、勝手に反応する。
 駿さんは、私の身体からランジェリーを剥ぎ取り、私をベッドへと押し倒した。
 
「『……いい声だ。……その甘い吐息を、もっと聴かせてみろ。……お前の身体が、俺の声にどう反応するか……すべて、俺がデータとして記録してやる』」
​ 彼の唇が、私の耳元に触れる。
 まるでナイトの囁きをそのままリアルに再現するかのように、彼は私の名前を呼んだ。
​「『……凛。……愛してる。……お前のすべてを、俺に捧げろ』」
​ その言葉が、私の脳を支配する。
 彼の指が、私の肌を優しく滑り、そして、私の最も敏感な場所へと触れた瞬間——。
 
「…………っ、あ……!」
 
 私の口から、抗えないほどの甘い声が漏れ出した。
 ベッドの脇に設置されたマイクが、その声を拾い上げ、記録していく。
 
(……ダメ、これ、完全に彼の思う壺だ……! でも、こんなに気持ちいいなんて……ナイト様の声で、こんなにも、身体が痺れるなんて……!)
​ 駿さんは、私の反応を楽しみながら、さらに深く、甘く、私を支配していく。
 彼は決して焦らない。まるで、最高級の楽器を調律するかのように、私の身体と心を、彼の声だけで完璧に操っていく。
​4. ハネムーンの夜、無限のループ
​「『……凛。……まだ足りない。……もっと俺の名を呼べ。……お前のその、俺にしか出せない「特別な声」……一晩中、俺のためだけに鳴らしてみろ。……いいな?』」
 
 私の理性は、彼の声によって完全に破壊された。
 私はただ、彼の声に導かれるまま、彼が求めるままに、愛の言葉を叫び続ける。
 
(……ああ、もうダメ。……私、本当にこの人の声なしじゃ生きていけない……! これが、私の新しい「受理」の形なんだ……)
 
 どれほどの時間が経ったのか。
 南国の夜は、永遠に続くかのように深まっていく。
 
 彼の唇が、私の耳元で囁いた。
「『……今日のレッスンは、これくらいにしておこう。……お前が、俺の声だけで、完璧に俺に堕ちたことを確認できたからな。……明日からのレッスンが、楽しみだろ?』」
 
 私の身体は、快感と疲労でぐったりとしていた。
 けれど、彼の瞳には、まだ底知れない欲望の炎が揺らめいている。
 
「…………駿さん……ひぃ……」
「ふっ。……いい返事だ。……さあ、今夜は、俺の声に抱かれて眠れ。……お前の鼓動も、吐息も、寝息も、すべて俺が管理してやる」
 
 駿さんは私を抱きしめ、天蓋付きベッドの柔らかいシーツの中に押し込んだ。
 部屋を包み込むアロマは、私たちが開発した「真夜中の静寂」をイメージした、深く安らぐ香りへと変わっていた。
 
 私の耳元には、彼が再生した、私の「愛のアーカイブ」。
 そして、そのアーカイブの上から、彼の温かい地声が、まるで子守唄のように降り注ぐ。
 
「『……おやすみ、俺の可愛い奥さん。……明日も明後日も、そして永遠に……お前は俺の声の檻の中で、俺に愛され続けるんだからな』」
 
(……うん。……それで、いい。……私のすべては、もう、この人のものだから)
 
 私は、彼の腕の中で、深い眠りに落ちていった。
 そこは、世界で一番甘く、世界で一番逃げ場のない、俺の「声」という名の楽園。
 
 ハニースイート・ハネムーン編、第一夜は、こうして甘美な幕を閉じた。
 
 ……しかし、この物語は、まだ始まったばかりだ。
 楽園での「調教」は、翌朝からさらに加速していく。

つづく