1. 聖域への招待と、獲物の震え
三年前のプロジェクト開始直後。セキュリティ上の懸念と、何より「俺の視界から一秒も消したくない」という極めて個人的な欲求により、俺は凛を自分のマンションへ連れ帰った。
都心の夜景を足元に従える、超高層マンションの最上階。
オートロックの重厚な音が、彼女の背後で「カチリ」と鳴った瞬間、俺の胸の中では歓喜のファンファーレが鳴り響いていた。
「……あの、部長。お邪魔します。……あの、本当にここに私が住むんですか? ゲストルームがあるとはいえ、こんな、国家機密を扱ってそうなラグジュアリーな場所に……」
凛は、玄関のイタリア製大理石に足を踏み入れるのを躊躇うように、小刻みに震えていた。
彼女が纏う安物の柔軟剤の香りが、俺の部屋の高級なアロマと混ざり合う。その不協和音こそが、彼女が俺のプライベート領域(テリトリー)を侵食し始めた証拠であり、俺にとっては至高の刺激だった。
「何を今更。お前の身の安全を確保するのは、プロジェクトリーダーである俺の義務だ。……それに、お前を深夜まで働かせたあと、あのアパートまで帰す時間は、我が社の損失(ロス)でしかない」
俺は冷徹な上司の仮面を被り、彼女の首筋に手を添えた。
指先から伝わる、彼女の鼓動。早鐘を打つそのリズムが、俺の支配欲をチリチリと焼き焦がす。
(……いいぞ、凛。もっと怯え、もっと俺の体温を意識しろ。……今夜から、お前が眠る場所も、吸う空気も、すべて俺が管理する)
2. バスルームの攻防と、サンプリングの誘惑
彼女にゲストルームを与え、必要な荷物を運び込ませた後、俺はリビングでワインを傾けながら、手元のタブレットを確認していた。
この部屋の全域には、音響解析のための超高感度マイクが設置されている。もちろん、彼女には「生活ノイズが製品開発のデータになる」という詭弁を弄して納得させてある。
バスルームから、水音が聞こえてきた。
(……凛が、俺の風呂を使っている)
その事実は、俺の理性をじわじわと削り取った。
スピーカーから流れてくる、微かな水しぶきの音、彼女が思わず漏らした「……ふぅ」という吐息。
「……ああ、極楽。……ナイト様の声聴きながらお風呂に入れるなんて、私、前世でどんな徳を積んだのかしら……」
インターホン越しに聞こえてきた彼女の独り言に、俺は思わず口角を上げた。
彼女は、自分が今まさに「ナイト」そのものの家で、裸体を晒しているとは露ほども思っていない。
(……いいな、凛。……その無防備な声を、すべてデジタルデータとして保存し、解析してやろうか。……お前が俺の声にどれだけ依存しているか、その湿った吐息が証明しているぞ)
俺は立ち上がり、彼女が風呂から上がってくるのを待った。
やがて、湯気に包まれて出てきた凛は、俺が用意したシルクのパジャマに身を包んでいた。サイズを測ったかのようにぴったりなのは、俺が三年前から彼女の体型を視覚的にプロファイリングしていたからに他ならない。
「……あ、部長。お風呂、ありがとうございました。……あの、そのパジャマ、すごく着心地がいいです」
「そうか。……お前の肌に直接触れるものだ、最高級の素材を選んだ。……凛。髪が濡れているぞ。……こっちへ来い。俺が乾かしてやる」
「ええっ!? い、いいです! 自分でやります!」
「命令だ。……お前が風邪を引いて明日の作業に支障が出るのを、俺は許さない」
3. ドライヤーの風と、ナイトの「生」囁き
ソファに座らせた彼女の背後に回り、俺はドライヤーのスイッチを入れた。
温風にのって、彼女の髪からシャンプーの香りが立ち上る。
俺は左手で彼女の柔らかな髪を掬い上げた。指に絡みつく、黒髪の感触。
凛は、借りてきた猫のように丸まって、肩を震わせている。
「……部長、近いです。……それに、なんだか部長の手、すごく丁寧で……」
「黙っていろ。……お前の髪は、俺の製品(プロモーション)の一部だ。……最高の状態で維持するのは、プロデューサーであるお前の義務だろう?」
俺はわざとドライヤーの音を少しだけ大きくし、彼女の耳元に口を寄せた。
そして、会社のスピーカー越しでも、スマホの画面越しでもない、本物の「地声」で、ナイトの周波数を放った。
「『……凛。……そんなに震えて、何を期待しているんだ? ……それとも、俺の手が、お前の首筋を撫でるのが……そんなに心地いいのか?』」
「…………っ、ひ、ひぃ……!」
凛が小さく悲鳴を上げ、身をよじった。
(……見つけたぞ、お前の『弱点』を)
俺は彼女の首の付け根、最も敏感な部分を指先でなぞった。
彼女の吐息が、一気に熱を帯びる。
「……部長、今、その声……。……なんだか、ナイト様に似て……」
「……気のせいだろう。……お前が深夜まで配信を聴きすぎているから、脳が錯覚を起こしているだけだ。……さあ、終わったぞ。……さっさと寝ろ」
俺は突き放すように言った。
これ以上彼女をいたぶれば、俺の理性が先に決壊することを知っていたからだ。
自室に戻った彼女が、布団の中で「……嘘、今の声、絶対……いや、まさか……あうぅ……」とのたうち回っている音を、俺はヘッドフォン越しに聴きながら、冷えたシャンパンを飲み干した。
4. ハネムーンの空の上で、アロマの「告白」
「………………最低。……本当に、駿さんって、変態の極みです……!」
プライベートジェットの機内。
俺が当時の「サンプリング音声」をいくつか再生して聴かせると、凛は顔を真っ赤にして、顔を覆い隠した。
「変態とは人聞きの悪い。……俺は、お前の生体データが、俺の部屋のアロマ調整にどう影響するかを確認していただけだ。……事実、お前があの夜、俺の声に反応して『興奮状態』になったことで、リビングのアロマは自動的に鎮静成分から催淫成分に切り替わっていたんだぞ」
「……は、はい!? な、何言ってるんですか! 怖すぎる!」
「怖がる必要はない。……今度のアイランドでは、お前の心拍数に合わせて、島全体の香りが変わるように設定してある。……お前が俺を求めれば、島全体が甘く香り、お前が俺に怯えれば、俺の声がスピーカーから優しくお前を包む。……逃げ場はないぞ、凛」
駿さんは凛を逃がさないように抱きしめ、彼女の首筋に深く、深く牙を立てた。
「『……凛。……あの同居初夜、お前が寝言で「ナイト様、好き……」って呟いたのを、俺が何回リピートして聴いたと思っている? ……お前は、三年前から俺の檻(なか)で、俺のことだけを夢見ていたんだ。……そうだろ?』」
「…………っ、……はい。……もう、認めます。……三年前から、私はあなたに、魂ごと受理されていました……」
凛は諦めたように、駿さんの首に手を回した。
プライベートジェットは、ついに二人のための楽園、モルディブの海原に浮かぶ秘密の島へと着陸する。
そこは、世界で一番ラグジュアリーで、世界で一番逃げ場のない——本当の「檻」。
三年前の同居初夜から始まった「独占」の物語は、今、極上のハネムーンという名の、終わらない夜へと続いていく。
「『……さあ、降りようか、俺の可愛い奥さん。……お前の声を、一滴残らず、俺の鼓膜に刻んでやるよ』」
「…………はい。……全部、捧げます……」
つづく
三年前のプロジェクト開始直後。セキュリティ上の懸念と、何より「俺の視界から一秒も消したくない」という極めて個人的な欲求により、俺は凛を自分のマンションへ連れ帰った。
都心の夜景を足元に従える、超高層マンションの最上階。
オートロックの重厚な音が、彼女の背後で「カチリ」と鳴った瞬間、俺の胸の中では歓喜のファンファーレが鳴り響いていた。
「……あの、部長。お邪魔します。……あの、本当にここに私が住むんですか? ゲストルームがあるとはいえ、こんな、国家機密を扱ってそうなラグジュアリーな場所に……」
凛は、玄関のイタリア製大理石に足を踏み入れるのを躊躇うように、小刻みに震えていた。
彼女が纏う安物の柔軟剤の香りが、俺の部屋の高級なアロマと混ざり合う。その不協和音こそが、彼女が俺のプライベート領域(テリトリー)を侵食し始めた証拠であり、俺にとっては至高の刺激だった。
「何を今更。お前の身の安全を確保するのは、プロジェクトリーダーである俺の義務だ。……それに、お前を深夜まで働かせたあと、あのアパートまで帰す時間は、我が社の損失(ロス)でしかない」
俺は冷徹な上司の仮面を被り、彼女の首筋に手を添えた。
指先から伝わる、彼女の鼓動。早鐘を打つそのリズムが、俺の支配欲をチリチリと焼き焦がす。
(……いいぞ、凛。もっと怯え、もっと俺の体温を意識しろ。……今夜から、お前が眠る場所も、吸う空気も、すべて俺が管理する)
2. バスルームの攻防と、サンプリングの誘惑
彼女にゲストルームを与え、必要な荷物を運び込ませた後、俺はリビングでワインを傾けながら、手元のタブレットを確認していた。
この部屋の全域には、音響解析のための超高感度マイクが設置されている。もちろん、彼女には「生活ノイズが製品開発のデータになる」という詭弁を弄して納得させてある。
バスルームから、水音が聞こえてきた。
(……凛が、俺の風呂を使っている)
その事実は、俺の理性をじわじわと削り取った。
スピーカーから流れてくる、微かな水しぶきの音、彼女が思わず漏らした「……ふぅ」という吐息。
「……ああ、極楽。……ナイト様の声聴きながらお風呂に入れるなんて、私、前世でどんな徳を積んだのかしら……」
インターホン越しに聞こえてきた彼女の独り言に、俺は思わず口角を上げた。
彼女は、自分が今まさに「ナイト」そのものの家で、裸体を晒しているとは露ほども思っていない。
(……いいな、凛。……その無防備な声を、すべてデジタルデータとして保存し、解析してやろうか。……お前が俺の声にどれだけ依存しているか、その湿った吐息が証明しているぞ)
俺は立ち上がり、彼女が風呂から上がってくるのを待った。
やがて、湯気に包まれて出てきた凛は、俺が用意したシルクのパジャマに身を包んでいた。サイズを測ったかのようにぴったりなのは、俺が三年前から彼女の体型を視覚的にプロファイリングしていたからに他ならない。
「……あ、部長。お風呂、ありがとうございました。……あの、そのパジャマ、すごく着心地がいいです」
「そうか。……お前の肌に直接触れるものだ、最高級の素材を選んだ。……凛。髪が濡れているぞ。……こっちへ来い。俺が乾かしてやる」
「ええっ!? い、いいです! 自分でやります!」
「命令だ。……お前が風邪を引いて明日の作業に支障が出るのを、俺は許さない」
3. ドライヤーの風と、ナイトの「生」囁き
ソファに座らせた彼女の背後に回り、俺はドライヤーのスイッチを入れた。
温風にのって、彼女の髪からシャンプーの香りが立ち上る。
俺は左手で彼女の柔らかな髪を掬い上げた。指に絡みつく、黒髪の感触。
凛は、借りてきた猫のように丸まって、肩を震わせている。
「……部長、近いです。……それに、なんだか部長の手、すごく丁寧で……」
「黙っていろ。……お前の髪は、俺の製品(プロモーション)の一部だ。……最高の状態で維持するのは、プロデューサーであるお前の義務だろう?」
俺はわざとドライヤーの音を少しだけ大きくし、彼女の耳元に口を寄せた。
そして、会社のスピーカー越しでも、スマホの画面越しでもない、本物の「地声」で、ナイトの周波数を放った。
「『……凛。……そんなに震えて、何を期待しているんだ? ……それとも、俺の手が、お前の首筋を撫でるのが……そんなに心地いいのか?』」
「…………っ、ひ、ひぃ……!」
凛が小さく悲鳴を上げ、身をよじった。
(……見つけたぞ、お前の『弱点』を)
俺は彼女の首の付け根、最も敏感な部分を指先でなぞった。
彼女の吐息が、一気に熱を帯びる。
「……部長、今、その声……。……なんだか、ナイト様に似て……」
「……気のせいだろう。……お前が深夜まで配信を聴きすぎているから、脳が錯覚を起こしているだけだ。……さあ、終わったぞ。……さっさと寝ろ」
俺は突き放すように言った。
これ以上彼女をいたぶれば、俺の理性が先に決壊することを知っていたからだ。
自室に戻った彼女が、布団の中で「……嘘、今の声、絶対……いや、まさか……あうぅ……」とのたうち回っている音を、俺はヘッドフォン越しに聴きながら、冷えたシャンパンを飲み干した。
4. ハネムーンの空の上で、アロマの「告白」
「………………最低。……本当に、駿さんって、変態の極みです……!」
プライベートジェットの機内。
俺が当時の「サンプリング音声」をいくつか再生して聴かせると、凛は顔を真っ赤にして、顔を覆い隠した。
「変態とは人聞きの悪い。……俺は、お前の生体データが、俺の部屋のアロマ調整にどう影響するかを確認していただけだ。……事実、お前があの夜、俺の声に反応して『興奮状態』になったことで、リビングのアロマは自動的に鎮静成分から催淫成分に切り替わっていたんだぞ」
「……は、はい!? な、何言ってるんですか! 怖すぎる!」
「怖がる必要はない。……今度のアイランドでは、お前の心拍数に合わせて、島全体の香りが変わるように設定してある。……お前が俺を求めれば、島全体が甘く香り、お前が俺に怯えれば、俺の声がスピーカーから優しくお前を包む。……逃げ場はないぞ、凛」
駿さんは凛を逃がさないように抱きしめ、彼女の首筋に深く、深く牙を立てた。
「『……凛。……あの同居初夜、お前が寝言で「ナイト様、好き……」って呟いたのを、俺が何回リピートして聴いたと思っている? ……お前は、三年前から俺の檻(なか)で、俺のことだけを夢見ていたんだ。……そうだろ?』」
「…………っ、……はい。……もう、認めます。……三年前から、私はあなたに、魂ごと受理されていました……」
凛は諦めたように、駿さんの首に手を回した。
プライベートジェットは、ついに二人のための楽園、モルディブの海原に浮かぶ秘密の島へと着陸する。
そこは、世界で一番ラグジュアリーで、世界で一番逃げ場のない——本当の「檻」。
三年前の同居初夜から始まった「独占」の物語は、今、極上のハネムーンという名の、終わらない夜へと続いていく。
「『……さあ、降りようか、俺の可愛い奥さん。……お前の声を、一滴残らず、俺の鼓膜に刻んでやるよ』」
「…………はい。……全部、捧げます……」
つづく



