その歌姫、退学計画実行中

この人は、私の祖父が社長をしている会社で、長年社長秘書を務めてきた、いわゆるエリートだ。

―朝の陽光に透ける、ミルクティー色の髪。

機嫌良さげに細められた目は、まるで自分がこの世の主人公だとでも言いたげなほど、自信に満ち溢れている。

綺麗な瞳に、それを縁取る長くて綺麗なまつ毛。唇は艶やかで、中性的な顔立ちをしている。

その上、その圧倒的容姿に負けないほどの学力や身体能力を持ち合わせているのだから、この世は不平等だ。

この人の甘い微笑だけで、いったいどれほどの人が恋に落ちたのか分からない。

そんな彼が今、私の頬を撫でながら顔を覗き込み、困惑した私の顔を見て、それはもう甘く微笑んでいる。

―ムカつく。

「引き取られたとき、私はまだ5歳だったんですよ? 覚えてるわけないじゃないですか。それに! もしそうだったんなら、なんで今さら言うんですか!」

頬に添えられた手を振りはらいながら言う。

怒り、憎しみ、困惑―。

いろんな感情で、声が震える。

私は、今まで努力してきた。

中学校時代、将来の夢である教師になるために、成績では常にオール5、部活動や委員会活動にも、積極的に取り組んだ。

そして、来月からは、私の目指していた高校へ行く予定だった。

私が死に物狂いで勉強して、なんとか推薦枠を勝ち取り、特待生としての入学が決定しているのだ。

それを、甘い笑顔で否定してきたようなものだ。