女狐の窓

──化性(けしよう)の者か、魔性(ましょう)の者か、正体をあらわせ。
──化性の者か、魔性の者か、正体をあらわせ。
──化性の者か、魔性の者か、正体をあらわせ。

「こうして呪文を三回唱えて、両手で印を結ぶでしょう? それから、その穴から覗くとね、狐狸妖怪(こりようかい)の類いが人間様に化けてても、見破れるというまじないなんです」

十歳年上の兄貴は美人女将が作った料理を喰いもせず、彼女の手をベタベタ触りながら『狐の窓』の組み方を教えている。
この山小屋が運よく見つから無ければ、ボクたちは遭難しかけていたと言うのに、のんきなものである。
いちゃつく彼らを尻目に飯を食い、手持ち無沙汰になったボクは、兄貴を真似て『狐の窓』をつくり、手に出来た覗き穴で兄貴と女将の姿を見た……。

「ん? なんだ? 弟の奴、急に血相変えて出ていきやがって。……えへへ。二人っきりですね」

女将は艶然(えんぜん)と微笑み返した。
その妖艶な笑顔はまるでこの世の者では無いようであった……。

……………………………………………………………………………………
【解説】

『狐の窓』とは両手の指を特定の形に組み合わせ、そこに出来た隙間(窓)から覗き見ると、幽霊や妖怪、人間の本性などの通常では見ることの出来ないものが見えてしまうという、日本の民間伝承、お呪いです。

江戸時代の『新版化物念代記』に掲載された、化け物・妖怪の正体を見破る手段として歌川国丸が描いた解説付きイラストが有名です。

さて、美人女将の手を握るために「狐の窓」のやり方を指南する「ボク」のお兄さん。

まんざらでも無さそうな美人女将。

そんな二人をあきれた目で見る「ボク」は手持ち無沙汰になり、何気なく狐の窓を作りそんな二人の様子をのぞくと大慌てで山小屋を出ていきます。

どうやら遭難するよりも恐ろしいモノの正体が見えてしまったようですね。