【ピンク色】
――芽衣子
その日は、風が強かった。
校舎の窓が、カタカタン、と落ち着かない音を立てていた。
私はスケッチブックを抱えて、廊下を歩いていた。
次の美術の課題は「色」。
先生はそう言ったけれど、
私の中で決まっている色は、もう一つしかなかった。
体育館の前を通りかかったとき、
聞き慣れた声がした。
「大丈夫?」
転びそうになった後輩を、
雪が支えているところだった。
自然で、迷いのない動き。
——まただ。
雪は、誰にでも同じように優しい。
わかっているのに…
はぁ、と小さい息が漏れ出した。
胸の奥が、少しだけ痛む。
俯いてそのまま通り過ぎようと…
ふと、雪と目が合った。
「芽衣子」
名前を呼ばれただけで、
世界の音が、一瞬遠くなった気がした。
「美術の課題?」
私が抱えているスケッチブックを見て、
雪はそう言った。
「……うん」
それ以上、言葉が出てこない。
「そっか。
完成したら、見せてよ」
軽い調子の一言。
きっと、深い意味なんてない。
なのに。
胸の奥が、熱くなった。
私なんかに興味を持ってくれるの?
スケッチブックを見たいって思ってくれるの?
ふぅ、と息を吐くたびに、胸の奥がじんわり熱を持った。
鉛色だったはずの感情に、
やさしい色が、滲む。
その夜、
イヤホンから作楪の声が流れる。
「好きって感情はね、
否定しようとすると、
だいたい色が濃くなる」
思わず、息を止めた。
——聞こえてるの?
そんなはずないのに、
その言葉は、まっすぐ私に向いていた。
机に向かって、
スケッチブックを開く。
彼の輪郭に、
ほんの少しだけ、色を足す。
ピンク。
淡くて、まだ不安定な色。
消せると思っていた線は、
もう、消えなかった。
私は、
自分の気持ちを否定するのを、
やめてしまった。
あぁ……好きって色だ。
――芽衣子
その日は、風が強かった。
校舎の窓が、カタカタン、と落ち着かない音を立てていた。
私はスケッチブックを抱えて、廊下を歩いていた。
次の美術の課題は「色」。
先生はそう言ったけれど、
私の中で決まっている色は、もう一つしかなかった。
体育館の前を通りかかったとき、
聞き慣れた声がした。
「大丈夫?」
転びそうになった後輩を、
雪が支えているところだった。
自然で、迷いのない動き。
——まただ。
雪は、誰にでも同じように優しい。
わかっているのに…
はぁ、と小さい息が漏れ出した。
胸の奥が、少しだけ痛む。
俯いてそのまま通り過ぎようと…
ふと、雪と目が合った。
「芽衣子」
名前を呼ばれただけで、
世界の音が、一瞬遠くなった気がした。
「美術の課題?」
私が抱えているスケッチブックを見て、
雪はそう言った。
「……うん」
それ以上、言葉が出てこない。
「そっか。
完成したら、見せてよ」
軽い調子の一言。
きっと、深い意味なんてない。
なのに。
胸の奥が、熱くなった。
私なんかに興味を持ってくれるの?
スケッチブックを見たいって思ってくれるの?
ふぅ、と息を吐くたびに、胸の奥がじんわり熱を持った。
鉛色だったはずの感情に、
やさしい色が、滲む。
その夜、
イヤホンから作楪の声が流れる。
「好きって感情はね、
否定しようとすると、
だいたい色が濃くなる」
思わず、息を止めた。
——聞こえてるの?
そんなはずないのに、
その言葉は、まっすぐ私に向いていた。
机に向かって、
スケッチブックを開く。
彼の輪郭に、
ほんの少しだけ、色を足す。
ピンク。
淡くて、まだ不安定な色。
消せると思っていた線は、
もう、消えなかった。
私は、
自分の気持ちを否定するのを、
やめてしまった。
あぁ……好きって色だ。


