雪と芽衣子
春先のカフェは、
窓際だけ、少し眩しかった。
「……芽衣子?」
名前を呼ばれて、
一拍遅れて振り向く。
「あ……雪君」
それだけで、
空気が、少しやわらぐ。
久しぶり、とは言わなかった。
元気だった?とも聞かなかった。
必要ないと、
どちらも、わかっていた。
沈黙が、落ちる。
でも、
昔みたいに、
苦しくはない。
「まだ、描いてる?」
雪が、
コーヒーカップを持ったまま聞く。
芽衣子は、
少し迷ってから、頷いた。
「うん。
上手じゃないけど」
「……知ってる」
その言葉に、
芽衣子は、笑った。
雪は、
その笑顔を、
ちゃんと見る。
逃げずに。
「俺さ」
雪は、
視線を落としたまま続ける。
「昔、
優しさを理由に、
何もしなかった」
芽衣子は、
何も言わない。
急かさない。
「今は……
ちゃんと、選びたい」
顔を上げて、
芽衣子を見る。
「芽衣子が、
今も、
描いてるなら」
一瞬、
言葉が詰まる。
「俺は……
そばにいたい」
告白というには、
不器用で、
お願いに近い。
芽衣子は、
スケッチブックを、
カバンから出した。
新しいページ。
「じゃあ」
鉛筆を置いて、
顔を上げる。
「今の雪君、
描いていい?」
雪は、
少し驚いてから、
ゆっくり頷いた。
「……うん」
線が、走る。
迷いは、
少ない。
雪は、
その音を聞きながら思う。
——始まるんだ。
あのとき、
始められなかった恋が。
ゆっくり。
でも、
確かに……
春先のカフェは、
窓際だけ、少し眩しかった。
「……芽衣子?」
名前を呼ばれて、
一拍遅れて振り向く。
「あ……雪君」
それだけで、
空気が、少しやわらぐ。
久しぶり、とは言わなかった。
元気だった?とも聞かなかった。
必要ないと、
どちらも、わかっていた。
沈黙が、落ちる。
でも、
昔みたいに、
苦しくはない。
「まだ、描いてる?」
雪が、
コーヒーカップを持ったまま聞く。
芽衣子は、
少し迷ってから、頷いた。
「うん。
上手じゃないけど」
「……知ってる」
その言葉に、
芽衣子は、笑った。
雪は、
その笑顔を、
ちゃんと見る。
逃げずに。
「俺さ」
雪は、
視線を落としたまま続ける。
「昔、
優しさを理由に、
何もしなかった」
芽衣子は、
何も言わない。
急かさない。
「今は……
ちゃんと、選びたい」
顔を上げて、
芽衣子を見る。
「芽衣子が、
今も、
描いてるなら」
一瞬、
言葉が詰まる。
「俺は……
そばにいたい」
告白というには、
不器用で、
お願いに近い。
芽衣子は、
スケッチブックを、
カバンから出した。
新しいページ。
「じゃあ」
鉛筆を置いて、
顔を上げる。
「今の雪君、
描いていい?」
雪は、
少し驚いてから、
ゆっくり頷いた。
「……うん」
線が、走る。
迷いは、
少ない。
雪は、
その音を聞きながら思う。
——始まるんだ。
あのとき、
始められなかった恋が。
ゆっくり。
でも、
確かに……


