――芽衣子
昼休みの廊下は、
少しだけ騒がしかった。
私は、
スケッチブックを抱えたまま、
行き場をなくして立っていた。
「……あの」
声がして、振り向く。
転校生の女の子。
七星。
近くで見ると、
思っていたより小柄で、
よく笑う目をしていた。
「それ、絵?」
逃げ場のない質問だった。
「……うん」
短く答えると、
七星は、ぱっと顔を明るくした。
「すごいね!
さっき、ちょっと見えちゃって」
——見えちゃって。
胸が、きゅっと縮む。
でも、
その声には、
探る感じも、
比べる感じもなかった。
「私、絵とか全然だから、
羨ましいなって思って」
ただ、それだけ。
「……ありがとう」
そう言うと、
七星は満足そうに笑った。
「また、見せてね」
軽く手を振って、
人の流れに戻っていく。
その背中を見送りながら、
私は、気づいてしまった。
——この子は、何も知らない。
知らないまま、
雪の近くに行く。
そのことが、
なぜか、
怖かった。
スケッチブックの白が、
少しだけ、
灰色に見えた。
昼休みの廊下は、
少しだけ騒がしかった。
私は、
スケッチブックを抱えたまま、
行き場をなくして立っていた。
「……あの」
声がして、振り向く。
転校生の女の子。
七星。
近くで見ると、
思っていたより小柄で、
よく笑う目をしていた。
「それ、絵?」
逃げ場のない質問だった。
「……うん」
短く答えると、
七星は、ぱっと顔を明るくした。
「すごいね!
さっき、ちょっと見えちゃって」
——見えちゃって。
胸が、きゅっと縮む。
でも、
その声には、
探る感じも、
比べる感じもなかった。
「私、絵とか全然だから、
羨ましいなって思って」
ただ、それだけ。
「……ありがとう」
そう言うと、
七星は満足そうに笑った。
「また、見せてね」
軽く手を振って、
人の流れに戻っていく。
その背中を見送りながら、
私は、気づいてしまった。
——この子は、何も知らない。
知らないまま、
雪の近くに行く。
そのことが、
なぜか、
怖かった。
スケッチブックの白が、
少しだけ、
灰色に見えた。


