「実は、定期預金解約の書類に不備があって返却されてて。手間で申し訳ないんだけど一緒に確認しながら再提出したくてさ」
……前言撤回、とまではいかないけれど仕事ができる人でもうっかりはあるらしい。
焼肉ランチの発端となった三戸さんもシゴデキ様であるのは確かなのに、うっかりを発動させていた。
子犬のようにしゅん、と申し訳なさそうな声色を突き放せる人間など存在するのだろうか。やっぱり、凪とは少し違うけれど人当たりの良さは似てると改めて感じた。
「はい、もちろんです。不備書類はデスクにありますか?このまま行きます!」
「ありがとう、助かる。児玉さんの言う通り書類持っていけばよかった。手続き例に沿って自分で郵送したのが間違いだった」
企画広報部は10階。ひとつ上だけれど、普段は用事がないからこうして階段をのぼることはまずない。
一段だけ前を行く名波さんを視界の端に映しながら、彼とのやりとりを思い返す。書類と記入例を渡して「児玉宛に提出してください」と伝えた後、マニュアルに沿って自分で手続きを進めてもらったのだった。
わたしのほうでやろうと思っていたらチャットで「マニュアル通り送っておきました」と届いたのはすこし前のことだ。



