ながされて、絆されて、ふりむいて



ひらめかせた手のひらを目で追う。ふわっと香ったのは甘ったるい匂い。さっきわたしがまぶした花のような香水をかき消すほどの、甘さ。この香りを、わたしは知ってる。



「名波さん。お疲れさまです」



たまたま見かけたから声をかけたのではなくて、わたしに用があってここに来たというのは明白だった。涼名ちゃん曰く、お昼前もわたしを訪ねてくれていたみたいだし。


名波さんによく思われたいとかそういう気持ちがあるわけではないけれど、焼肉ランチとなった経緯を知らない部外のひとと対面での打合せは極力避けたいのが本音だった。けれど、仕事である以上仕方がない。



「一応スケジューラーで確認して、午後とくに予定なさそうだったから。いま大丈夫?」


「はい、大丈夫です」



あいかわらず口調は柔らかくて、色素の薄い垂れ目がやさしく細まる。


非公開の予定以外は、社員の予定はスケジューラーでそれぞれ確認できるようになっている。わざわざわたしの名前を検索して確認の上で来てくれたのはやっぱり仕事のできる人だと思う。