ぐい、と引っ張られてかんたんに腕のなかに収まった。世界でいちばん愛おしいこの温もりを、一体わたしはどれだけ感じられていなかっただろう。
かたい胸板、ゆれる心音が懐かしく感じるほど。馴染む体温、どうかずっとわたしだけのものでいて。
「凪、だめ、ここ会社だよ、」
ゆるやかに高鳴る心臓とは裏腹にこぼれ落ちる理性。ほんとはずっとこうしていたい、わたしだって我慢できなかった、だけどここでのわたしたちは"ただの同期"だ。うすくて遠い関係。
「誰もいないよ」
「ほ、ほら、カメラとか」
「有事のときしか確認しない」
「だから、いい」と勝手に結論づける凪は、たまに現れる。ちょっぴり強引でわたしの話を聞かない茅野凪が確かにいる。
だけど、わたしが嫌がることは絶対にしない。今も、わたしが突き飛ばさないことをわかっている。



