ながされて、絆されて、ふりむいて




「わかってます。だけど今日は三戸さんに定時で終わってほしいので。だって今日って、」



三戸さんは滅多に在宅勤務をしない。ひとりひとりに与えられた社用スマホやノートパソコン、チャットアプリだって搭載されているから、無理に出社せずとも勤務は可能だ。


けれど、周りのみんなの顔を見て仕事がしたいから、という理由で彼女は基本的に社内にいる。それが人事部全体に安心感をもたらしていた。三戸さんがいる、ただそれだけでホッとするような雰囲気がある。


そんな彼女が今日、在宅を選んでいた理由。すこし前、駅までの帰り道が一緒になったときちょっとだけおはなししたのだ。その理由を。


一度言葉を止めて、小さく息を吸った。



「今日って……結婚記念日ですよね」