《いいよ、俺が取りに行くよ》
《まってて》
──来てくれるらしい。9階の人事部フロアとはひとつしか変わらないからわたしのほうから向かおうとしたのに。それならばわたしは大人しく待つのみだ。
その間に書類を準備しておこう。デスク右側のキャビネから"福利厚生関連"のファイルを取り出して、必要書類をピックアップする。
ファイルはもちろん経費で落ちて「アスクルで好きなの買っていいよ」という総務部のお姉さんの言葉に甘えてパステルカラーで揃えた。
「え、ねえ、まって、名波さん来たんだけど何事?」
涼名ちゃんをはじめ、ざわめきがひとつまたふたつ、と雲のように浮かんでゆく。みっつ上の名波さんはそれくらいの有名人だ。
フロア入口のほうへ視線を向ければしっかりと目が合った。わたしに気がついた名波さんがわたしめがけて歩いてくる。
「まって?こっち来る?え、私の推し、お嬢先輩に用あるの?やばい、近い、あした死ぬ?」
斜め前の涼名ちゃんのひとりごとが止まらない。そうこうしているうち、彼女の推しである名波さんがわたしのところへ到達した。



