わたしが過去に付き合ったひとはひとりだけ。栞さんの言うとおり凪への当てつけだった。
……もっとも、当てつけだなんて言っても凪がその意味を知ることも、その理由に傷つくことも、感情が動くこともない。ひとりよがりな当てつけにほかならない。
だけどそれが、凪との関係を変えたきっかけのひとつでもあった。
「花鈴ちゃん、ちょっとひとつ、提案なんだけどね」
運ばれたパスタをくるくるとフォークに巻きつける。そんなひとつの仕草ですらきれいな栞さんが「提案」と言って口を開いた。低すぎず高すぎない心地の良い声からの提案なら、すべて受け入れてしまいそう。
「花鈴ちゃん、いつも凪くんにちょっぴりつめたい態度でいるでしょう?今日は表彰にかこつけて、いつものかわいい花鈴ちゃんで素直に甘えてみたらどうかな」
「そ、そんな今さら……しかも面倒だって思われて、見捨てられちゃうかも」
凪は、わたしが恋人をつくらず遊んでいるのだと思っている。
……ううん、わたしがそう思わせてる。
そうじゃないと、凪がわたしに罪悪感を持って、情だけで縛りつけてしまうから。



