「児玉さん、お待たせしました」
「はい」
わたしたちは同期で今この瞬間からは仕事。リンノアの営業と、採用担当にすぎない。
「いってきます」の挨拶に「いってらっしゃい〜」と明るく声をかけてくれるのは間違いなく人事部のいいところで。
ホワイトボード、"児玉(お嬢♡)"のとなりに「直帰」を書き込む。凪もまた、4階の自分のフロアのホワイトボードに同じように書いてきたのだろう。心なしか優しく見守ってくれる彼に、どうしてか涙が溢れそうになった。
ネイビーのスーツを身に纏った背中を追いかける。凪の部屋のかりんスペース、お気に入りのグレージュスーツをかけたままで最近出番がない。
……正式に、帰るおうちが一緒になればいいのに。盗むように見上げてから送られる視線が、わたしだけのものになってほしい。
楽しみにしていた凪とのお仕事に、もやもやが少しだけつきまとう。ほんのすこしの、脆さをともなう歪み。
言葉にする勇気が、溢れたら、いいのに。
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