ながされて、絆されて、ふりむいて



呼ばれたのも、こんなふうに抱きしめられるのも、突然すぎて思考が追いつかない。


会社での就業時間中にこうやってわたしを呼んで触れて、それどころか話すことすらほとんどないのに。何かあればチャットで、わたしたちの約束だったから。



「花鈴、ごめん、急に」


「え、っと、大丈夫だけど、」


「……見ちゃって。名波さんといるとこ」



見上げた先の凪はいつも通り完璧で隙のない顔立ちなのに、表情はわずかに揺らいでいた。


この場所は廊下を普通に歩いていたら死角になって視界には入らない。


けれどいつだれが通るかわからない。いつかの定時後とは違う。れっきとした就業時間内だ。離してほしいけれど、わたしを正面から抱きとめる凪の力が強くて敵わない。


心なしか不機嫌が乗った声色は、耳元近くで直接鼓膜に届く。その不機嫌は、名波さんに関係してるの?


それとも、わたしがほかのひとと飲みに行くことが嫌な理由に関係してるの?