上手な返しが思いつかない。
だから黙ったままでいると、葵くんがくん、と私の手を引いて図書室から連れ出してしまう。
呆気に取られている先輩を残して、葵くんがドアを閉めた。
――手を握られたまま、しばらく無言で廊下を歩く。
前を行く葵くんは少しも喋らなくて、こっちを見ることもないからどんな顔をしているかもわからない。
誰もいなくなったところで、やっと足を止めた葵くんが振り返った。
(……捨て犬。)
弱々しく眉尻垂らして、へにゃりと口も締まってない。
悲しいって、痛いくらい伝わる顔してる。
「……あの人と何しようとしてたの?」
頭の中に答えがあるくせに聞いてくる。
“私は”何も。
なんて言い訳が頭に浮かんで、
“いや違うか”と自分のスタンスを思い出して微笑むだけに留めた。



