純情*ライアー



「あー、だるーい!化学の授業ってなんでこんなにだるいんだろ。」


「移動教室があるのがね。あと実験も面倒かも。」



げんなりと背中を丸める莉央の隣に並んで、教科書を抱えて綺麗な姿勢で廊下を歩く。

次の授業の場所は化学室。
だから移動中なのだ。



道中、女の子を侍らせ立ち話をしている葵くんを見かける。


「葵聞いて!さっきすごいことがあってー……」


1番近くの子が嬉しそうに顔を華やがせながら、夢中でおしゃべりしている声が離れたところからでも聞こえてきた。


「へー、よかったじゃん。」



続いて軽い口調の葵くんの声。

女の子のきゃっきゃとした笑い声と、大人っぽく静かに笑う葵くんの声が混ざった。


その横を通過する手前。
チラリとそこを盗み見れば、葵くんの目がちゃんと女の子の方に向いている。

相手の子も嬉しそうに葵くんを見上げているから、バッチリ視線が絡んでいる。


――よしよし、練習の成果が発揮されてるみたいね。


「ちょっと優里!聞いてるー!?」

「あぁごめん。ちょっとぼーっとしてた。」


遠くなってた莉央のマシンガントークが意識の中に戻ってきて、視線はそのまま耳だけ莉央の方に返す。



もういいかと安心して通り過ぎようとしたタイミングで、ふと、顔を上げた葵くんが私を見つけた。



余裕ぶった目が僅かに揺らぐ。
確認を求めるような目。

しょうがないなぁ。



“よくできました”


の意を込め密かに微笑みかけて、視線を前に戻す。



莉央と談笑しながら歩いていく私の背中を、葵くんがほうっと見ていた。