純情*ライアー


――筒抜けの上方から、ひっそりとした男女の含み笑いがかすかに聞こえる。



階段を一段上がるごとに緊張が増して、覚悟してきた割に直面する覚悟が決まらない。



ふっと笑い声が止んで、代わりに小さな物音と吐息が落ちてくる。



逃げない、と奮い立たせて上を見上げた。



ガッツリ横からのアングルで見た、他の男に唇を奪われる好きな人。




微動だにしない深くて暗い黒目がちの目が、初めて俺のことを見つめている。




説明し難い衝撃に放心。



なんの感情も持たない葉澄さんの視線に、心臓ごと絡め取られて動けない。





少しして、耳奥に自分の鼓動が届く。


この動悸の理由は苦しいからなのかなんなかのか、わからないけどとにかく切ない。



やっと動き出した足が、黙って来た道を戻る。



階段を降りてすぐの空き教室に逃げ込んで、頭を抱えてズルズルとしゃがみ込んだ。