教室に葵くんがいるのは、見慣れなくて変な気持ち。
いつも廊下で見かけていた光景が、今は同じ室内で起こっている。
「葵とはどうなってんの?今。」
「……今はどうもなってないよ。」
新入生にあらかた資料を渡し終えて、体育館のドアが閉まると辺りは静寂に包まれる。
春の日差しがぽかぽかと背中を温めて、穏やかだなぁと遠くに思う。
「葵の本音聞いたら即付き合うと思ってたのに。
いつまでグズグズしてんの?」
「聞いたからグズグズしてるんだよ。」
葵くんの気持ちが重くて尊くて、
軽い気持ちで応えたくはなかったから。
片眉下げて自嘲して笑って見せると、桐谷くんがあからさまにげんなりとした顔をする。
「やっぱ重いわ、葉澄さん。そんで、激ピュア。
好きになる理由いちいち考えるタイプでしょ。」
「んー、どうかな。
そうなったの、葛城くんに対してだけだから。」
余った資料を段ボール箱に詰めて片付ける。
それから持ち上げた箱はほぼスカスカで軽くて、足取りも自然と軽快になる。
「そろそろチャイム鳴るし戻ろ。
朝早かったから、1時間目は眠くなっちゃいそうだね。」
今日1番大事な時間は、昼休み。
私はそこで、葵くんに伝えたいことがある。



