「急にどうしたの?」
平静を装って、落ち着いた声で話す。
深呼吸も電話口ではバレそうで、我慢してるからちょっと苦しい。
電話の向こうの葵くんの顔は見えない。
でも、頑張って緊張を破ろうと大きく息を吸う音は聞こえてきた。
「海、見た!
――すごい綺麗だった!」
……色気のない、
ありきたりで下手くそな感想。
でも、だからこそ胸が熱くなる。
「葵ーっ何やってんのー!?」
電話口の向こう側で女の子の声が葵くんを呼び戻す。
「別に何も!
――急にごめん、それだけ!じゃ、また。」
返事も待たず、プツンとあっさり通話が切れる。
“すごい綺麗だった”
――たったそれだけ。
それだけのためにわざわざ通話を繋いでくれた。
(こんなときばっかりずるいなぁ。
カッコ良すぎるよ、葵くん。)
優しくて、嬉しくて、きゅんと甘い。
いまやっと自覚した。してしまった。
恋に勝ち負けなんてない。
それを示し続けてくれていた人に、
――私はずっと負け続けていた。



