「ねぇ、いいじゃん。」
「えー、どうしよっかなぁ。」
梅雨入り前の蒸し暑さ。
人目を忍んだ屋上手前のくらーい踊り場。
体が触れ合うギリギリの距離で向き合う男女が、クスクスと笑って駆け引きする。
「じゃあさ、後でジュース奢ってくれるならキスしてもいーよ?」
小首を傾げて上目遣い。
条件なんてなんでもいい。
相手よりも優位に立つ、そのために言っているのだ。
「そんなんでいいならいくらでも奢るって。
だから――、さ?」
ひとつ年上の先輩が、そわそわしながらくい、と私の顎を持ち上げる。
“どうぞ”と余裕に微笑んで、そっと目を伏せてあげた。
――タン、タン
誰かが階段を登ってくる音がする。
私に夢中の先輩は、全く気付かず私の唇にがっついた。
横目に階段下を見る。
ミルクティー色の軽やかな髪が揺れる頭が上を向く。
甘いマスクがお目見えして、琥珀色の瞳と目が合った。
間近にキスのリップ音。それ以外の音はない。
見つめ合うその人と私の時だけ止まってる。
――キスシーンを、“同類”に見られた。



