「優里さん、あの人……」
角を曲がって先輩の姿が完全に見えなくなると、葵くんの顔にたちまち困惑と動揺が浮かんだ。
(さっきまで頑張ってくれてたんだね。)
その優しさに顔が緩む。
うーん、だめだなぁ。
緊張が解けて、私も感傷的になってるみたいだ。
「うん。元カレ。」
聞いた途端、葵くんの目に力が入る。
それはどういう気持ちの顔なんだろう?
「葵くん。」
わからないけど、苦しそうだから力が籠る葵くんの手をそっと掬う。
冷たい私の手の感触に驚いて、葵くんの力が緩んだ。
「私の昔話、聞いてくれる?」
聞いたらきっと、また複雑な顔させちゃうかも。
葵くんの目の揺れが消えて、真摯に私の目を見て頷く。
――初めて人に話すから、ちゃんと話せるかわからないけど。
何も知らないもやもやを抱えさせるよりは誠実か、と拒まないその手を握った。



