「ドキドキした?葵くん。」
ゆったりと体を起こして妖しく唇を吊り上げる。
襟元を掴んだ手に葵くんの強い鼓動が伝播して、何も言わなくても私の問いを肯定している。
「このくらいで純情過ぎ。
……だから勘違いしちゃうんだよ。」
――強い刺激に反応する鼓動を、“恋愛感情だ”って。
葵くんが固まっている隙にその下から抜け出すと、涼しい顔で着衣の乱れを直して出入り口に続く襖を開けた。
廊下に人の声はない。
出るなら、今。
躊躇わずにドアを開けて、素早く階段下まで歩き切る。
壁に凭れて熱を冷ましていると、消灯時間が近づいてガヤガヤと人の流れが起こり始める。
生々しい、唇で感じた葵くんの感触に、はあ、と深く息を吐く。
(なにやってんだろ、私。)
胸の音が鳴り止まない。
馬鹿みたいに矛盾だらけ。
葵くんの優しく慎重に触れる手つきを思い出して、そっと自分の毛先を撫でた。



