「――はい、これでどう?」
風が止んで、さらりと乾いた髪が肩に落ちる。
葵くんの手が最後に梳いた毛先から名残惜しそうに離れて、ずっと逸らされていた目がやっと鏡越しにこっちを向いた。
「うん、完璧。
これで女の子とお泊まりした時もバッチリだね。」
冗談めかしてそう言ったら、葵くんが傷付いたみたいな顔をする。
ちくりと痛んだ胸に苦笑して、ポンと椅子から立ち上がった。
「ありがと、葵くん。今日の練習は完璧。
……じゃ、帰るね。」
消灯時間が迫る前に戻らないと、誰かに見られるかもしれないし。
熱気とシャンプーの匂いが満ちた脱衣室から和室に出た時、ぱし、と手首を掴まれた。
「誰とも泊まらないから!」
熱っぽい真剣な目。
あまりに必死だから、そういう風に錯覚する。
「そうだね、葵くんにはまだ早いか。」
手を捻って拘束から逃れようと試みながら、足は出口へと進む。
「そういうことじゃなくて……」
もどかしそうに顔を顰めた葵くんが、逃さないと握る力を少し強める。
それに合わせて更に後ろに引っ張られたみたいになった。
「わ、」
「あっ」



