気怠そうに教室のドアに立つ葵くんと、お弁当箱を片付ける手を止めてそっちを見た私に皆の視線が集まる。
“付き合ってる”
そんな偽りの真実を刷り込まれたあとの空気は、それを検証するような張り詰め方。
「来てくれたの?葵くん。」
私が紡ぐ彼の名前に、ざわ、と動揺が広がる。
「行きなよ」と莉央が緊張しながら耳打ちした。
ガタンと椅子を引く音が重い。
それでも足取りは軽やかに。
トン、と葵くんの前で立ち止まると、葵くんの涼しい目元が優しく細まった。
「当然でしょ。優里は俺の彼女なんだから。」
――説明っぽい台詞。
でも、葛城葵が言うと死ぬほど甘い。
上手すぎでしょ、葵くん。
だから私も自然に彼女役に入り込める。
「……ん、そっか。」
恥じらいながらすっと視線が下がる。
体の横で手持ち無沙汰にまごつく手を、葵くんがさらりと掬った。
「行こ。
――水瀬さん、ちょっと優里借りてくから。」
葛城葵の色香に当てられて顔を真っ赤にした莉央が、こくこくと頷いて“どうぞ”と手のひらを差し出す。
「ありがとね」と軽く言って、葵くんが私の手を引いて人が溢れる廊下を歩き出した。



