ライブ当日。
私は開演30分前には、指定席に着き、ライブ開始を放心状態で待っていた。
何故、放心状態なのか。
それはとんでもない倍率を勝ち抜いて当日のチケットを取れただけでもすごいのに、いざ会場に来てみればなんとアリーナの最前列だったからだ。
ほ、本当にこの席が自分の席なのか、と、ステージの近さにあらゆるものを疑ってしまう。
見間違えではないか、表記ミスではないか、そもそも人違いではないか。
このライブのチケットは電子チケットだ。
当日まで席はわからず、会場の入場口にある端末にチケットを読み込んで、初めてどの席かわかる。
もしかしたらここは私の席ではないかもしれない、と再びスマホを開いて、電子チケットを確認したが、そこにはやはり最前列、1-30と表示されていた。
か、神が、神が私に微笑んでくれた…。
一生分の運をここで使い果たしてしまった。
電子チケットの内容を何度も何度も見て、うっとりする。
そうしていると、電子チケットに見慣れない文字があることに気がついた。
座席番号が表示されている、さらに下。
そこには、〝メンバーとの交流券 当選〟と書かれていた。
「…へ」
思わぬ神々しい〝当選〟という二文字に、声が漏れる。
信じられない文言に、その文字を凝視するが、何度見てもその文字が変わることはない。
ま、幻の交流券に当選してる…。
この〝メンバーとの交流券〟とは、ライブ会場に集まっているファン1万人の中からたった10人が選ばれる、名の通りの券なのだ。
各グループから好きなメンバーを1人ずつ選び、そのメンバーと握手ができ、少しだけ話せて、チェキまで撮れる。
夢のような券なのだ。



