「あ、希亜さん!」
先に売店に来ていた小野原さんが顔を上げて、主を見つけた犬のように目を輝かせる。
「詩葉ちゃん!」
小野原さんと希亜さんはまだそこまで接点がないはずだ。
しかしそれを感じさせない、希亜さんのとんでもないコミュ力に尊敬すら覚えていると、「シャンプーとかがなくって、買いに来たんです」と小野原さんが神妙な面持ちでそう説明した。
「あたしの部屋にもなかった。この子たちも、アメニティないから売店来たの」
後ろにいた私たちを指し示して、希亜さんが説明し返すと「詩葉さん、やっぱないよ」と、茶髪の佐月湊が奥の陳列棚からちらりと顔をのぞかせた。
「佐月さんも来てたんですね」
結愛が一歩を踏み出して、佐月湊の近くに近寄ると「湊でいいよ。俺名字嫌いだし」とそっけなく結愛の言葉を打ち返した。
「湊さんでいいですか?」
結愛が2つ結びの髪を揺らしながら首をかしげる。
「いいよ。」
ロビーで会った時は、茶髪でちょっと近づきにくい印象があったが、その印象が幾分薄れた気がする。
入口から、湊さんと結愛がいるところまで移動すると、「あ、唯ちゃん」と園村さんの声がした。
「園村さん!アメニティないらしいんですけど…」
助けを求めるように彼女にそう言うと、「優子でいいわよ。」とさらっと言われてしまった。
「じゃあ、優子さんで…」
ぼそぼそと食べかすをこぼすようなしゃべり方でそうつぶやくと、「よくできました」と母の笑みを浮かべた優子さんが小さく拍手をしてくれた。
「そういえば、18時から晩ご飯だったわよね」
スマートフォンに目を落とした優子さんがそう言うと、「まじ⁉腹減ったから早く食べに行こーぜ‼」と木瀬くんがわくわくした様子で満面の笑みを浮かべる。
「まだ17時だからね」
「えー、腹減りすぎて限界なんだけど」
木瀬くんが口を尖らせると、「唯―、マジでアメニティないから今日お風呂入れないかも」と結愛の困ったような声が聞こえてきた。
「最悪じゃん。今日疲れたから、シャワーだけでも浴びたいのに」
「というか、あたしメイク落とさないと肌ガサガサになるんだけど」



