10 Billion Game


「うーん…」

エレベーターホールにある、花瓶が置かれた木の台に肘を置きながらスマホをいじっていると、「唯ちゃーん!」と、明るい声とヒールの音が耳朶(じだ)を打った。

「あ、津村さん!」

スマホの画面から顔を上げると、「希亜でいいよー。」と彼女が鷹揚に笑って、エレベーターの『▽』ボタンを押した。

その後ろから、数歩遅れて結愛がついてくる。

『ちん』という音とともにエレベーターの扉が開く。中には、ふわふわ茶髪が印象的な棚川さんと、体操服姿の遅刻男である木瀬くんがいた。

「あ、明日原(あすはら)さん!」

棚川さんが堂々と名前を間違えたので、「明日村(あすむら)です」と食い気味に説明して、エレベーターに乗り込む。

「あ、ごめんごめん。とりあえず僕たち売店行くつもりだけど、女子ーズも行くの?」

棚川さんの『女子ーズ』発言に、結愛と2人でこっそり笑う。

「うん。タオルしかないから、シャンプーとか石けんとかないと風呂入れないじゃん」

津村さんがネイルをカチャカチャと鳴らしながら、そう言い放った。

「俺部活帰りだからさすがに風呂入れないと困るわ」

木瀬くんの発言で、さりげなく視線をそちらに向けると木瀬くんは体操服を着ていた。

遅刻したやつ、という印象が強すぎてあまり気になっていなかったが、よく見ると、木瀬くんの髪は汗でペタッとしている気がする。

「何部なの?」

結愛がそう問いかけると、「サッカー部」と木瀬くんが返事した。

「なんか顔がそれっぽい」

「顔?えー」

結愛がそういって木瀬くんを指さすと、彼は口を尖らせた。

だけど結愛の言う通り、木瀬くんの雰囲気はまんま『サッカー部男子』だ。

ちょっと日焼けした肌に、無駄のない体つき、彼が纏っている活発そうな雰囲気が『サッカー部男子』なんだろう。

うちの中学校にも、木瀬くんのようなタイプの、にぎやかなサッカー部男子が何人かいる。

「まあでも、俺の高校にも、俺みたいなサッカー部男子はいるから」

私の思っていたことを代弁され、心の中で『エスパーかよ』とつぶやく。

間もなく、『ちん』と扉が開いて売店のある3階でエレベーターの扉が開いた。