「国内に数名しかいない薬剤を扱う者。貴重な家系のユニアミ。私と共に神殿に来なさい。」
私は教会の人に兄への伝言を頼み、一度家に帰って母にも伝えた。
神殿に入るのに相応しい服など無く、お母さんは戸惑っていたけれど。
私は普段着で向かった。
ライオネル様が出迎え、神殿に集められた本や巻物のある書物庫に案内された。
ゲームではここの描写がない。
聖女がどうやって薬を見つけたのか。
ゲームでは蔓延しきって、多くの犠牲を出した後。
それでも希望の薬だと、人々は感謝した。
今なら大勢救える。
最小限に抑える事が出来る。誰も死なずに済むかもしれない。
家で読んだ本を避けていく。
表紙では判断できず、中身を確認して。地道な作業。
古い巻物を手にし、そこに答えがあるのだと謎の自信。
そこには絵と効用が事細かに。
そして過去の疫病災害として記述があった。
前回の魔王復活と同じ時期。
子どもの好奇心が、偶然に見つけた大発見。
ライオネル様に告げると、それはすぐに現神官の元に届く。
これは魔族からの攻撃だったのだ。
聖女の足止めだったのだろうか。
そして気づく。その薬草は、初心者の森にはないもの。
けれど私のアイテムボックスに、種と葉、花と実が沢山あった。
それは紫蘇に似ていて、種まきから一月程で収穫できる。栽培可能。
寒い季節の前で良かった。
ジュースにも出来るし、料理にも使える。
安く大勢に平等に供給できる。
「あぁ、女神レイラリュシエンヌ様の加護に感謝いたします。」
無意識だった。
その姿を見て、ライオネル様は特別な許可を得て私を礼拝堂に入れてくれた。
「少しの時間、ここに留まる許可を頂きました。祈りなさい。女神レイラリュシエンヌ様の祝福が、あなたにあるように。」
祈りを捧げ、目を開けると好都合にもライオネル様は不在。
そっと像に近づき、足台に触れる。
設定の通り。隠し扉。
そこには世界を救う星形のアイテムが存在した。
それを胸元に隠し、借りた本を抱いて礼拝堂を後にする。
これで世界は救われた。魔王を倒せる。
けれど私は持ち出したことを後悔する。
何故なら、この世界での私は聖女ではなくモブだから。
聖女が現れたら渡そう。
時が来たら、渡せなくても使えばいい。
今、返せば何らかの罪に問われるだろう。
隠し場所を変えられ、厳重に保管されて聖女が見つけられないかもしれない。
信用を今、失えば。
私が救える命も消える。
本来、種と葉・花と実のアイテムが手に入るのは、病が蔓延した後だから。
これからこの世界の病で死ぬはずだった大勢を、私が救う。
