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ローゼルに微力ながらも世話を焼く日々が続いたある日のこと。
どんよりとした空からしとしとと降る雨の音を耳にしながら、皇宮内の渡り廊下を歩いていると、バシャンッと何かが倒れる音が聞こえてきた。
こんな天気の中、一体何が…。
つい反射的に音の方へと視線を向ける。
するとそこには、雨の中佇む1人の背中と、その周りで倒れている数人の男たちの姿があった。
彼らは皆、騎士服を身にまとっており、騎士たちの間で揉め事があったのだと察せられる光景だった。
倒れている男たちは小さな呻き声をあげるだけで、立ち上がる様子はない。
水たまりへと沈む体と騎士服に、見ているだけでその痛みが伝わる。
気がつけば私は雨に濡れることも厭わず、渡り廊下から駆け出ていた。
バシャバシャと水と地面を蹴り、彼らの元へと向かう。
「あの…」
せめて1人だけ立っている人に事情を聞こうと、その背中を見つめ、私は言葉を失った。
雨に濡れる艶やかな黒髪に、スラリとした高身長。
彼は一体誰なのか、振り向くのを待つまでもなく、わかってしまった。
「ローゼル、一体何があったの?」
私の気配に気づき、振り向いたローゼルが冷たい表情で私を見下ろす。
宝石のような輝きを放つアメジストの瞳は、この空のように暗い。
何かあったのだ。
ローゼルの様子にすぐそう理解した。



