「っちゅうか、お茶会ってどんなんやろ? アフタヌーンティーみたいなもんやろか……」
(元の世界で行ったアフタヌーンティーのスコーンやケーキ、めっちゃ美味しかったなぁ)
秋乃が独り言を呟きながら思い出に浸っていると、ノックの音が聞こえて来た。
「アキノ、私だ」
「リヒトどうしたん?」
「ダズワルド家のお茶会に招待されたとシータから聞いた」
リヒトの後ろにシータが控えていた。
「シータ、いつの間に!?」
秋乃がお茶会についてぼんやり考えている間に、リヒトに伝えに行ったらしい。
有能な侍女である。
「そうやねん。勇者の情報調べてくれるらしいから、手土産持って行かな!」
「それも大事だが、貴族のお茶会にはドレスが必要だ。仕立て屋を呼んで作ってもらおう。シータ」
「はい、こちらが最近流行のドレスのデザイン集でございます」
シータが持って来たデザイン集を見て、秋乃は目を見開く。
どれもレースとフリルがたっぷり使われたゴージャスなドレスだ。
「こんな高そうなドレス作るなんて勿体ないわ! なんか、借りたりできへんかな」
秋乃が今着ている服ーー長袖のクラシックなワンピースも、転移した当日に何着も作ってもらったものだ。
さらに高そうなドレスを作ってもらうのは気が引けた。
「……それならばある!」
リヒトの指示を聞いたシータが部屋から出て行き、大きな箱を持って戻ってきた。
それは、エレガントなワインレッドのドレスだった。
「わぁ……めっちゃ綺麗やなぁ」
シンプルなデザインで、これなら抵抗なく着られそうだと秋乃は思った。
近づいてよく見ると、生地に細かい模様がついていて美しい。
「こんな綺麗なドレス、持ち主の人に挨拶せな」
「亡き母のドレスだ」
「そんな大事なもの借りられへん!」
「いや、飾っているだけより着てもらった方が母も喜ぶ」
「そんならありがたく借りさせてもらうわ」
「リヒト様いるんでしょう!? 仕事がまだ残ってますよ!」
扉の向こうから、クロードの声が聞こえた。
「着てみて調整が必要ならば、シータ頼む。私が許可する」
「かしこまりました」
「アキノ、ではまた」
「仕事がんばってな!」
◇◆◇
お茶会当日。
「準備できたし、シータ行くで!」
秋乃はダズワルド家に行くため、王家の馬車に乗ろうとしていた。
ちなみに移動魔法は限られた人間しか使えないので、通常の移動手段は馬車だ。
慣れないドレスを着ているので、ゆっくりと馬車に近づく。
「アキノ!」
息を切らしたリヒトがやって来た。
「どうしたん、あっ何かわかった?」
「……綺麗だ」
「ほぁ!?」
(綺麗って何が!?ドレスのことやんな!)
「リヒト様いた!国王様がお待ちですよ!」
クロードの大声に秋乃は我に返る。
「国王様待たしたらあかんやろ! 早よ仕事に行きや! ウチはシータがついとるし大丈夫や」
「ああ!」
クロードに引きずられ、リヒトは王宮に消えていった。
馬車に乗り込んだ秋乃は、窓ガラスに映る自分を見つめる。
朝からメイド達の手によって磨き上げられ、黒い髪はツヤツヤ、瞼は真珠のように輝き、頬はバラ色だ。
(ウチやないみたい)
秋乃は元の世界にいた頃もドレスなんて着たことも、フォーマルなメイクをしたこともなかった。
「アキノ様、もうすぐ着きます」
侍女兼護衛のシータの言葉に、秋乃の気が引き締まる。
これから初めて会う令嬢のお茶会に出席するのだ。
勇者に関する情報ーー元の世界に帰る方法がわかるかもしれない。
(ルティリアさん、親切な人やなぁ。喜んでくれるとええな……)
「めっっっちゃ立派な家や……」
馬車を下りるとすぐにダズワルド家の執事が現れた。
執事の案内で、庭園に通される。
どうやらガーデンパーティらしい。
バラのアーチをくぐり抜けると、金色の艶やかな髪、淡いピンク色の華やかなドレスを着た美しい令嬢が佇んでいた。
後ろにも何人かドレスの令嬢がいる。
「アキノさん、ようこそ。私がルティリア・ダズワルドですわ」
ピンクのドレスの令嬢ルティリアが、にっこりと笑みを浮かべてカーテシーをした。
「ルティリアさん、本日はお招きいただき、ありがとうございます!」
秋乃が挨拶をしている途中なのに、クスクスと笑う声が聞こえた。
「訛りがひどいですわねぇ」
「それにルティリア様をさん付けなんて、マナーがなってませんわ」
取り巻きが失礼なことを言っているのに、ルティリアは諌めることもせず、ニコニコと微笑を浮かべている。
(何やねん、こいつら。綺麗なんは見かけだけやん)
秋乃はキレて帰りたかったが、肝心の勇者についての情報をまだ聞けていない。
執事に促されて静かに席に着いた。
丸いテーブルの正面にルティリア、左右に取り巻きの令嬢が座って笑みを浮かべている。
最初に口を開いたのはルティリアだった。
「アキノさんが広めたたこ焼き、食べにくくて苦手ですわ。レディは大口を開けるわけにいかないんですのよ」
「平民は平気なのでしょうけどね」
「私たちが食べられるようなものを流行らせてくださらない?」
「そんなこと平民に無理ですわよ、オホホ!」
「……」
秋乃が黙っているのが気に食わないのか、ルティリアはさらに続けた。
「それにしても、古くさいドレスですわね」
秋乃の目が怒りで見開く。
「……これはリヒトのお母さんのドレスなんですわ」
さすがに秋乃も黙っていられなかった。
自分のことならまだ我慢ができるが、亡き母の大事なドレスを貸してくれたリヒトのことを思うと許せない。
秋乃の言葉を聞いたルティリアと取り巻きの空気が変わる。
「なんですって!?」
ヒステリックに声を荒げたルティリアに、取り巻きもダズワルド家の執事も驚いた。
貴族はどんな時でも表情に出さぬように教育を受けている。
社交の場で怒りを見せるなんてとんでもない。
そんな周りの視線に気付いたルティリアは咳払いをした後、秋乃を見てにっこりと微笑む。
「賢者が遺した書簡に、勇者に関する情報は全くありませんでしたわ。残念でしたわね」
ルティリアが勝ち誇った顔で言い放った。
(最初からウチをバカにするんが目的やったんや。勇者の情報がないならもうええか!)
「そういえばウチ、手土産にお菓子を作って来たんですわ」
「はぁ、平民が作るお菓子なんて食べられるわけないですわ…えっ!」
秋乃がケーキ箱から出したのは、クロカンブッシュ風のお菓子だった。
積み上げられた一口サイズの丸いカステラひとつひとつに、チョコレートで作られた繊細なレースやリボンのデコレーションが施されている。
「かっわいい……」
「素敵!」
取り巻き達が思わず呟き、ルティリアに睨まれてすぐに両手で口を覆った。
秋乃はルティリアと取り巻き達を一瞥した後、スイーツをケーキ箱に戻した。
「え……」
残念そうな戸惑いの声を漏らしたルティリア達を、秋乃は冷めた目で見つめる。
「平民の作るお菓子なんて食べへん言うたん、自分らやろ。捨てられたらもったいないんで、持って帰ってウチが食べますわ!」
ケーキ箱を持った秋乃はくるりと背を向け、侍女のシータを連れて馬車に向かって歩き出した。
「ああ、そうや」
秋乃は立ち止まり、ルティリアと取り巻きの方を向く。
「このお菓子はベビーカステラ言うて、たこ焼き器でも作れるんですわ」
「ええっ!?」
ルティリア以外の取り巻きの令嬢達の声は、驚きつつも明らかに喜びを含んでいた。
今食べ損ねたかわいくて素敵なお菓子を、お抱えシェフに作らせようと全員思っていた。
取り巻き達がお菓子に興味を持っていることは、秋乃にも伝わっていた。
だから秋乃はにっこりと笑って、
「食べたくなったら、たこ焼き器を買うてくださいね~」
と言い残して馬車に乗った。
ルティリアの顔は、憤怒で真っ赤になっていた。
◇◆◇
「アキノ、随分早いがお茶会はどうだったんだ?」
「リヒト……」
王宮に戻り、部屋に入るところでリヒトに声をかけられた。
どこまで話していいか秋乃が思案している間に、シータが洗いざらい話してしまった。
秋乃がルティリア達にバカにされた下りで、リヒトの顔が険しくなった。
「リヒトもシータもテオのおっちゃんも皆喋り方について何も言って来おへんかったから、うっかりしてたわ」
「土地固有の言葉使いがあることは、特に珍しいことではないからな」
「そうなんや」
「ルティリア嬢の行動は、人としても貴族としてもあるまじき行いだ。ダズワルド家には何らかの制裁を……」
物騒な単語の登場に慌てた秋乃は、
「そうや! 持って帰ったお菓子、食べてくれへん?」
と話題を変えた。
食いしん坊のリヒトは案の定、気が逸れて「どんなお菓子なんだ?」と目を輝かせて秋乃に尋ねる。
「リヒト様、こちらです」
シータはテキパキとテーブルに、クロカンブッシュ風のベビーカステラとティーセットを並べていた。
本当に有能な侍女である。
「なんと可愛らしい!食べて良いか?」
「全部食べてもええよ」
「ではいただこう!」
リヒトはキラキラとした目で、ベビーカステラをひとつ口に入れた。
「うまい! レース状のチョコのパリパリとした歯応えと、カステラの柔らかい食感の違いも楽しいな」
「リヒト、食レポうますぎやろ!」
「食レポ?」
秋乃が笑い出したので、リヒトは不思議そうな顔をした。
しかし、ベビーカステラを食べる手は止まらない。
(お嬢達にバカにされたウチが作ったお菓子をこんなに美味しそうに食べてもらえて、よかったわ)
秋乃は勇者の情報を探してくれるルティリアのために心を込めて作ったのにバカにされ、少なからず傷ついていたのだ。
だが、美味しそうにすべて平らげたリヒトの笑顔を見て、傷ついた心が癒された。
「リヒト、ありがとう」
「こちらこそ、こんなにおいしいお菓子をありがとう! 甘いものが沁みる」
「今日も忙しかったん?」
「いや、今日は時間に余裕があったので、書庫で勇者について調べていたのだが……帰還の方法はまだ見つけられてない、すまない」
申し訳なさそうに言うリヒトは、叱られた大型犬のようだった。
「しゃあないて、100年とか前の記録なんて探すん大変やろ。ところで、なんでリヒトはウチの部屋の前におったん?」
「そうだ、国王からアキノに大事な話を言付かっているんだ」
「国王から?」
驚く秋乃に、リヒトは軽く頷く。
「アキノのたこ焼きのお陰で東国の食品の輸入が増えて、今まであまり関わりのなかった東国と良い関係になってきていてな、」
「ウチのお陰っちゅうか、たこ焼きがおいしいからやな! ほんで?」
「東国の王子がソルタニアに来て、秋乃の料理を食べたいと」
「東国の王子!?」
つづく
(元の世界で行ったアフタヌーンティーのスコーンやケーキ、めっちゃ美味しかったなぁ)
秋乃が独り言を呟きながら思い出に浸っていると、ノックの音が聞こえて来た。
「アキノ、私だ」
「リヒトどうしたん?」
「ダズワルド家のお茶会に招待されたとシータから聞いた」
リヒトの後ろにシータが控えていた。
「シータ、いつの間に!?」
秋乃がお茶会についてぼんやり考えている間に、リヒトに伝えに行ったらしい。
有能な侍女である。
「そうやねん。勇者の情報調べてくれるらしいから、手土産持って行かな!」
「それも大事だが、貴族のお茶会にはドレスが必要だ。仕立て屋を呼んで作ってもらおう。シータ」
「はい、こちらが最近流行のドレスのデザイン集でございます」
シータが持って来たデザイン集を見て、秋乃は目を見開く。
どれもレースとフリルがたっぷり使われたゴージャスなドレスだ。
「こんな高そうなドレス作るなんて勿体ないわ! なんか、借りたりできへんかな」
秋乃が今着ている服ーー長袖のクラシックなワンピースも、転移した当日に何着も作ってもらったものだ。
さらに高そうなドレスを作ってもらうのは気が引けた。
「……それならばある!」
リヒトの指示を聞いたシータが部屋から出て行き、大きな箱を持って戻ってきた。
それは、エレガントなワインレッドのドレスだった。
「わぁ……めっちゃ綺麗やなぁ」
シンプルなデザインで、これなら抵抗なく着られそうだと秋乃は思った。
近づいてよく見ると、生地に細かい模様がついていて美しい。
「こんな綺麗なドレス、持ち主の人に挨拶せな」
「亡き母のドレスだ」
「そんな大事なもの借りられへん!」
「いや、飾っているだけより着てもらった方が母も喜ぶ」
「そんならありがたく借りさせてもらうわ」
「リヒト様いるんでしょう!? 仕事がまだ残ってますよ!」
扉の向こうから、クロードの声が聞こえた。
「着てみて調整が必要ならば、シータ頼む。私が許可する」
「かしこまりました」
「アキノ、ではまた」
「仕事がんばってな!」
◇◆◇
お茶会当日。
「準備できたし、シータ行くで!」
秋乃はダズワルド家に行くため、王家の馬車に乗ろうとしていた。
ちなみに移動魔法は限られた人間しか使えないので、通常の移動手段は馬車だ。
慣れないドレスを着ているので、ゆっくりと馬車に近づく。
「アキノ!」
息を切らしたリヒトがやって来た。
「どうしたん、あっ何かわかった?」
「……綺麗だ」
「ほぁ!?」
(綺麗って何が!?ドレスのことやんな!)
「リヒト様いた!国王様がお待ちですよ!」
クロードの大声に秋乃は我に返る。
「国王様待たしたらあかんやろ! 早よ仕事に行きや! ウチはシータがついとるし大丈夫や」
「ああ!」
クロードに引きずられ、リヒトは王宮に消えていった。
馬車に乗り込んだ秋乃は、窓ガラスに映る自分を見つめる。
朝からメイド達の手によって磨き上げられ、黒い髪はツヤツヤ、瞼は真珠のように輝き、頬はバラ色だ。
(ウチやないみたい)
秋乃は元の世界にいた頃もドレスなんて着たことも、フォーマルなメイクをしたこともなかった。
「アキノ様、もうすぐ着きます」
侍女兼護衛のシータの言葉に、秋乃の気が引き締まる。
これから初めて会う令嬢のお茶会に出席するのだ。
勇者に関する情報ーー元の世界に帰る方法がわかるかもしれない。
(ルティリアさん、親切な人やなぁ。喜んでくれるとええな……)
「めっっっちゃ立派な家や……」
馬車を下りるとすぐにダズワルド家の執事が現れた。
執事の案内で、庭園に通される。
どうやらガーデンパーティらしい。
バラのアーチをくぐり抜けると、金色の艶やかな髪、淡いピンク色の華やかなドレスを着た美しい令嬢が佇んでいた。
後ろにも何人かドレスの令嬢がいる。
「アキノさん、ようこそ。私がルティリア・ダズワルドですわ」
ピンクのドレスの令嬢ルティリアが、にっこりと笑みを浮かべてカーテシーをした。
「ルティリアさん、本日はお招きいただき、ありがとうございます!」
秋乃が挨拶をしている途中なのに、クスクスと笑う声が聞こえた。
「訛りがひどいですわねぇ」
「それにルティリア様をさん付けなんて、マナーがなってませんわ」
取り巻きが失礼なことを言っているのに、ルティリアは諌めることもせず、ニコニコと微笑を浮かべている。
(何やねん、こいつら。綺麗なんは見かけだけやん)
秋乃はキレて帰りたかったが、肝心の勇者についての情報をまだ聞けていない。
執事に促されて静かに席に着いた。
丸いテーブルの正面にルティリア、左右に取り巻きの令嬢が座って笑みを浮かべている。
最初に口を開いたのはルティリアだった。
「アキノさんが広めたたこ焼き、食べにくくて苦手ですわ。レディは大口を開けるわけにいかないんですのよ」
「平民は平気なのでしょうけどね」
「私たちが食べられるようなものを流行らせてくださらない?」
「そんなこと平民に無理ですわよ、オホホ!」
「……」
秋乃が黙っているのが気に食わないのか、ルティリアはさらに続けた。
「それにしても、古くさいドレスですわね」
秋乃の目が怒りで見開く。
「……これはリヒトのお母さんのドレスなんですわ」
さすがに秋乃も黙っていられなかった。
自分のことならまだ我慢ができるが、亡き母の大事なドレスを貸してくれたリヒトのことを思うと許せない。
秋乃の言葉を聞いたルティリアと取り巻きの空気が変わる。
「なんですって!?」
ヒステリックに声を荒げたルティリアに、取り巻きもダズワルド家の執事も驚いた。
貴族はどんな時でも表情に出さぬように教育を受けている。
社交の場で怒りを見せるなんてとんでもない。
そんな周りの視線に気付いたルティリアは咳払いをした後、秋乃を見てにっこりと微笑む。
「賢者が遺した書簡に、勇者に関する情報は全くありませんでしたわ。残念でしたわね」
ルティリアが勝ち誇った顔で言い放った。
(最初からウチをバカにするんが目的やったんや。勇者の情報がないならもうええか!)
「そういえばウチ、手土産にお菓子を作って来たんですわ」
「はぁ、平民が作るお菓子なんて食べられるわけないですわ…えっ!」
秋乃がケーキ箱から出したのは、クロカンブッシュ風のお菓子だった。
積み上げられた一口サイズの丸いカステラひとつひとつに、チョコレートで作られた繊細なレースやリボンのデコレーションが施されている。
「かっわいい……」
「素敵!」
取り巻き達が思わず呟き、ルティリアに睨まれてすぐに両手で口を覆った。
秋乃はルティリアと取り巻き達を一瞥した後、スイーツをケーキ箱に戻した。
「え……」
残念そうな戸惑いの声を漏らしたルティリア達を、秋乃は冷めた目で見つめる。
「平民の作るお菓子なんて食べへん言うたん、自分らやろ。捨てられたらもったいないんで、持って帰ってウチが食べますわ!」
ケーキ箱を持った秋乃はくるりと背を向け、侍女のシータを連れて馬車に向かって歩き出した。
「ああ、そうや」
秋乃は立ち止まり、ルティリアと取り巻きの方を向く。
「このお菓子はベビーカステラ言うて、たこ焼き器でも作れるんですわ」
「ええっ!?」
ルティリア以外の取り巻きの令嬢達の声は、驚きつつも明らかに喜びを含んでいた。
今食べ損ねたかわいくて素敵なお菓子を、お抱えシェフに作らせようと全員思っていた。
取り巻き達がお菓子に興味を持っていることは、秋乃にも伝わっていた。
だから秋乃はにっこりと笑って、
「食べたくなったら、たこ焼き器を買うてくださいね~」
と言い残して馬車に乗った。
ルティリアの顔は、憤怒で真っ赤になっていた。
◇◆◇
「アキノ、随分早いがお茶会はどうだったんだ?」
「リヒト……」
王宮に戻り、部屋に入るところでリヒトに声をかけられた。
どこまで話していいか秋乃が思案している間に、シータが洗いざらい話してしまった。
秋乃がルティリア達にバカにされた下りで、リヒトの顔が険しくなった。
「リヒトもシータもテオのおっちゃんも皆喋り方について何も言って来おへんかったから、うっかりしてたわ」
「土地固有の言葉使いがあることは、特に珍しいことではないからな」
「そうなんや」
「ルティリア嬢の行動は、人としても貴族としてもあるまじき行いだ。ダズワルド家には何らかの制裁を……」
物騒な単語の登場に慌てた秋乃は、
「そうや! 持って帰ったお菓子、食べてくれへん?」
と話題を変えた。
食いしん坊のリヒトは案の定、気が逸れて「どんなお菓子なんだ?」と目を輝かせて秋乃に尋ねる。
「リヒト様、こちらです」
シータはテキパキとテーブルに、クロカンブッシュ風のベビーカステラとティーセットを並べていた。
本当に有能な侍女である。
「なんと可愛らしい!食べて良いか?」
「全部食べてもええよ」
「ではいただこう!」
リヒトはキラキラとした目で、ベビーカステラをひとつ口に入れた。
「うまい! レース状のチョコのパリパリとした歯応えと、カステラの柔らかい食感の違いも楽しいな」
「リヒト、食レポうますぎやろ!」
「食レポ?」
秋乃が笑い出したので、リヒトは不思議そうな顔をした。
しかし、ベビーカステラを食べる手は止まらない。
(お嬢達にバカにされたウチが作ったお菓子をこんなに美味しそうに食べてもらえて、よかったわ)
秋乃は勇者の情報を探してくれるルティリアのために心を込めて作ったのにバカにされ、少なからず傷ついていたのだ。
だが、美味しそうにすべて平らげたリヒトの笑顔を見て、傷ついた心が癒された。
「リヒト、ありがとう」
「こちらこそ、こんなにおいしいお菓子をありがとう! 甘いものが沁みる」
「今日も忙しかったん?」
「いや、今日は時間に余裕があったので、書庫で勇者について調べていたのだが……帰還の方法はまだ見つけられてない、すまない」
申し訳なさそうに言うリヒトは、叱られた大型犬のようだった。
「しゃあないて、100年とか前の記録なんて探すん大変やろ。ところで、なんでリヒトはウチの部屋の前におったん?」
「そうだ、国王からアキノに大事な話を言付かっているんだ」
「国王から?」
驚く秋乃に、リヒトは軽く頷く。
「アキノのたこ焼きのお陰で東国の食品の輸入が増えて、今まであまり関わりのなかった東国と良い関係になってきていてな、」
「ウチのお陰っちゅうか、たこ焼きがおいしいからやな! ほんで?」
「東国の王子がソルタニアに来て、秋乃の料理を食べたいと」
「東国の王子!?」
つづく
