エリート生徒会と秘密の詩

「君、生徒会に入らないか?」
「はい?」

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松音風莉16歳。かの有名な鳳学園に通う高校1年生。
特に勉強も運動も得意ではない「普通」の人。

「ふふっ、また視聴数増えた」
♪〜

だけど、ひとつだけ。ほとんどの人に秘密で、『シルフ』という名前で歌い手活動をしてる。
まぁ、聞いてくれる人は全然いないんだけどね。



今は昼休み。早々にご飯を食べ終わった私はだだっ広い中庭を歩いている。

いつ見ても素敵にカットされている‪庭園は楽曲作りにとても役立っている。

綺麗な庭園を歩いていると、知っている後ろ姿を見つけた。

「きずなちゃん!」
「ふうりん!!ご飯食べ終わったの?」

幼馴染の五条きずなちゃん。彼女は若いながらも小説家として活躍していて、この学園の生徒会も務めている。

「うんっ。響が居なかったから1人で曲考えてた」

この学園の生徒会は少し特殊で、それぞれの学年ごとで勉強、運動、芸術のトップが生徒会に入ることになっている。

きずなちゃんは2年生の勉強トップで書記を担当している。

すごいと思うし、認められたいとは思うけど。。。
私なんかが入れるわけないから諦めてる。

「そっかあ。わたしは生徒会室に、あ!もう時間だ!行かないと、」
「えっ!早く行かないと」
「うん、ありがと!」

笑顔で去っていったきずなちゃんの後ろ姿を見送って、また散歩を続ける。

「ふんふふ〜ん」

暖かい陽射しに包まれながら平穏な昼休みが過ぎる──────。

「君」

「?」
とんとん、と肩を叩かれた。

「私?」
「そう、君だ」
なにか聞いたことのある声。だれだろう、?

不思議に思って振り向いた私は硬直した。

「しっ、しし、、白城先輩!?」
「。。。あぁ。なにか悪いことでも?」

不本意そうな顔をしているこの人は生徒会長である白城庵先輩。この学園では知らない人が居ない、モテモテイケメンである。

そんな先輩が、何しに?
私の心情を察したのか、白城先輩は口を開く。

「君、生徒会に入らないか?」
「はい?」

生徒会、とは??あの生徒会?エリートの?いやいやいやいや、私なんかが生徒会な訳ないでしょ

「私?違うと思いますよ?人違いですね」

そう言い散歩をやり直そうとする私をなぜか白城先輩は焦りながら引き止める。

「君だよ、松音風莉。君を高校1年生芸術トップとしてスカウトする。」


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「はああああ。。。なんでこんな、」
「生徒会のスカウトは断れねぇだろ」

数十分前白城先輩にスカウトされ、断れずずるずると来たのは生徒会室。

生徒会室には生徒会役員のきずなちゃんはもちろん、幼馴染の響がいた。

彼はバスケの強豪クラブのメンバーで高1だったら1番運動神経が良いと思ってる。

響は生徒会候補だとは思ってたけど!私!絶対に違うよね?なんもない普通の女子高生だよ??
もしかして先輩なんか悪いのかな。。。?

「きずなちゃん、会長と副会長は?」
「なんか明日樺ちゃん呼んでるんだってさ」

私の隣にはなんか研究者じみた小さい男の子がいた。
めっちゃ分厚い辞書みたいなのを黙々と読み進めていた。

生徒会室には私と響ときずなちゃんのかたまりと、スポーツマンみたいな人と、ウルフヘアのかっこいいお姉さんと、あの研究者くん、という非常に気まずい状態になっていた。

「シラキセンパイ。。。」

ガラッ

「遅れてごめんよ〜今回は1年生の新メンバーを紹介する!」

ふわりと髪をなびかせてきたのは白城先輩。後ろには切りそろえたお人形さんのようなボブカットの副会長の相田先輩とショートヘアのかっこいい女の人がいた。

「先に僕たちから。僕は白城庵!生徒会長をしている。サッカーを専門としているよ。よろしくなー」

飄々としている白城先輩。

「私は相田彩芭。生徒会副会長をしていて、ピアノとバイオリンが得意よ。以後お見知り置きを。」

お人形さんボブカットの相田先輩。冷たい雰囲気でちょっと怖そうな雰囲気。

「わたしは羽住香子。会計3年。数学が得意で数学オリンピックに出たことあるよ。ま、これからよろしくね〜」

襟足が長いウルフカットで爽やかな羽住先輩。

「俺は如月篤史!広報担当の2年生だ。陸上をしている!!よろしくな!」

元気て熱血そうな如月先輩。

「夏木明日樺、広報2年!!劇団に所属している!」

演劇じみた動作をしながら笑顔で自己紹介する夏木先輩。金髪のショートヘアが目立つ。

「わたしは、五条きずな。2人は知ってるよね。藤馬くん、よろしくね。」

ほんわかしたきずなちゃん。本当に癒される!

「おれは八雲響。1年生で、バスケをしてる。よろしくお願いします。」

響の自己紹介は簡潔で良い。長い話は苦手なの。

「ぼくは井口藤馬。1年生。理科が好き。よろしく」

無口そうな藤馬くんはちらりと目をこっちに向けただけですぐ本に目を向けた。

むぅ、なんか感じ悪

「えっと、私は松音風莉です!特に得意なことはない、です。。。」

そう言ったとき、相田先輩をはじめとした生徒会役員が驚いた。
白城先輩ときずなちゃんは微笑んだままで、響は焦ったような怒ったような顔で頭をかいている。

めっちゃ気まずいんだけど。。。やめてくれないかな。。。

「え、なにか賞をとった事は。。。?」
「特に。。。」

「1番高い成績は?」
「音楽の4です。。。」

相田先輩、夏木先輩が顔をこわばらせて目配せする。

「なんか自慢出来ることは?」
「幼馴染が凄いこと。。。?」

「自分の特技は?」
「別に。。。」

歌なんて他にもっともっと上手な人がいるし。

羽住先輩は呆れた顔で頬杖をつき、如月先輩は「まじか」と独りごちる。

「風莉はすごいんだよ、」
「それはそう。」

幼馴染2人も擁護してくれるけど、身内やん、みたいな雰囲気が否めない。いやそうとしか思えない。

そんなときに、白城先輩が口を開いた。

「ガチかお前ら。松音の凄さがわからねぇのか。」

急な爆弾発言。

え、待ってください!?私も私の凄さなんて知りませんけど!

余裕の笑みを浮かべる姿はかっこよくて、いかにもモテる男子感満載だ。

「分かるわけないでしょ?他人なんだから。」

相田先輩は冷え冷えとしたトーンで白城先輩を睨む。

「じゃあ、その言い方だと庵は風莉チャンの凄さを知ってるってわけね?」

羽住先輩は煽るような笑みで(そんなわけないでしょ)と暗に言っている。

本当に!!私も!知らないの!そんな冷たい目で見ないで。。。
きずなちゃんは笑顔のまま何も言わないし、響も先輩の威厳に気圧されて何も言えないよう。

「あぁ、そうだけど?」

ガチで喧嘩腰じゃん!え?え?どうすべき!?

「まっ、」
「じゃあ、今年の目標は『松音風莉の凄さを知る』だな。」

「えっ?」

そんなんあっていいの!?

「私も私普通だと思ってるし、私凄くないですよ。。。?」

おずおずと口に出すと、即座に否定された。

「「それはない」」

きずなちゃんと響だった。優しい幼馴染に感謝。

「ふふっ、ありがとう。」

「まあ、今日はこの辺にしようか。次は体育祭についてだよ。競技や運営について何となく考えておいて。」

そう告げるとふらりと去っていった。

他のメンバーも私に冷たい目を向け生徒会室を出ていった。

「もぉぉぉぉ先輩ぃぃぃぃぃ」

きずなちゃんと響だけになった瞬間、私はなさけない声を出した。

「ふうりんは凄いのにねぇ」
「まじでなんでわかんないかね?」

2人は私のために憤慨してくれている。
なんかもうそれだけで満たされた気分になる。

「いいの。私が普通だなんて私が1番知っているから。」
「ほんとさぁ、自分の凄さに気づいた方がいいぞ?」
「そうそう。よく分からない結果になったけど大変そうだね、ふうりん。。。」

謎の生徒会生活1日目、初っ端から大変そうです。。。