鈍感な私は愛されヒロインです!?

 昼休みも後半に入って、教室の空気が少しずつざわつき始める。
 お弁当を片付ける音、椅子を引く音、誰かが次の授業の愚痴をこぼす声。

 月城くんの視線が一瞬、私の方に向いて、それからすぐ逸れる。

「次、理科だっけ」

「そう」

「だる……」

 瀬名くんが大げさに机に突っ伏す。
 その拍子に、私の机が少し揺れた。

「ちょっと、揺らさないでよ」

「悪い悪い」

 軽く笑いながら言うけど、私の方は見てない。

 なんとなく、教室を見回す。
 いつもと同じ昼休み。
 なのに、さっきから変に意識が散る。

 視線が合いそうになると、どこかが先に逸らす感じ。
 話しかけられそうで、されない間。

 ……考えすぎかな。

「桜庭」

 急に名前を呼ばれて、少しだけ肩が跳ね上がった。

「なに?」

 声の主は月城くんだった。
 いつもより、少しだけ距離が近い。

「これ、落ちてた」

 差し出されたのは、私のシャーペン。
 さっき机の下に落としたらしい。

「あ、ありがとう」

「うん」

 それだけ。
 でも、受け取るときに指がかすって、思わず手を引っ込めた。

 月城くんも、ほんの一瞬だけ動きを止めてから、何もなかったみたいに席に戻る。

「……」

 誰も何も言わない。
 瀬名くんはスマホをいじってるし、黒崎くんは窓の外を見てる。

 私だけが、さっきの一瞬を引きずってるみたいで、少し落ち着かない。

 そのとき、チャイムが鳴った。

「あー、終わった」

「行くぞ」

 黒崎くんが立ち上がって、椅子を引く音が教室に響く。

 みんな、いつも通りに動き出す。
 昼休みは終わり。
 何事もなかったみたいに。

 ……なのに。

 席を立ちながら、私はふと、さっき月城くんがいた場所を見た。
 目が合いそうになって、また、どちらともなく逸らす。

 気のせい。
 きっと。

 そう思いながら、教科書を抱えて、私は教室を出た。