鈍感な私は愛されヒロインです!?

 しばらくして、先生がプリントを配り始める。
 前から後ろへ、順番に。

 私のところに回ってきたとき、プリントが一枚足りなかった。

「あれ……」

 小さく声を出すと、すぐ横から一枚差し出される。

「これ」

 月城くんだった。

「ありがとう」

「……さっきさ」

 声を落として、続ける。

「無理しなくていい」

 それだけ。

「無理、してないよ」

 思ったまま言うと、月城くんは少しだけ困った顔をした。

「してる自覚がないなら、なおさら」

 それ以上は言わず、前を向く。

 その横顔を見ながら、胸の奥が少しだけ落ち着かなくなる。

 ——なんでだろう。

 授業の後半、先生が黒板に向かっている隙に、後ろから小さな紙切れが飛んできた。
 私のノートの端に、ひらっと落ちる。

 見ると、走り書き。

『前出るな』

 文字、雑。
 黒崎くんだと、すぐ分かった。

 振り返ると、目は合わなかった。
 でも、椅子に深く座ったまま、腕を組んでいる姿が見える。

 注意、なのか。
 それとも——。

 考えていると、今度は小さな声。

「回収するぞー」

 瀬名くんが、前の席から振り返って囁いた。

「なにを?」

「空気」

 意味分からない、と言おうとしたけど、
 瀬名くんはにっと笑って、前を向いてしまった。

 授業が終わりに近づくころには、
 理科室の空気はすっかりいつも通りになっていた。