鈍感な私は愛されヒロインです!?

 理科室に入ると、さっきまでのざわつきが嘘みたいに静かになった。
 薬品の匂いと、金属の机の冷たさ。移動教室特有の空気に、少しだけ気持ちが切り替わる。

「そこ、空いてるよ」

 月城くんが、窓側の席を指さした。
 私は頷いて、そこに座る。

 前を見ると、黒崎くんが一番後ろの席に腰を下ろしていた。
 さっきのことなんてなかったみたいな顔で、椅子を引いて、机に肘をつく。

 ——ほんとに切り替え早い。

 先生が入ってきて、授業が始まる。
 今日は実験前の説明だけらしく、ノートを開く音が一斉に重なった。

 私は板書を写しながら、さっきのことを思い返していた。

 どうして、あんなふうに前に出たんだろう。
 別に、正しいことをしたかったわけでもない。
 ただ、あの空気が苦手だっただけ。

「……」

 ふと視線を感じて、顔を上げる。

 月城くんだった。

 じっと見ているわけじゃない。
 でも、私が顔を上げたのに気づくと、すぐに目を逸らした。

 その仕草が、なんだか妙に気になった。