授業が始まって、教室は一応静かになった。
私はノートを取りながら、さっきのことを思い出していた。
名前を呼んだだけで、あんな顔をされるとは思ってなかった。
「……おい」
低い声が、斜め後ろから飛んでくる。
振り返ると、黒崎くんが机に肘をついてこちらを見ていた。
「さっきの」
「なに?」
「廊下にいたやつ」
短く、それだけ。
「ああ、後輩だよ」
「後輩?」
「うん」
それを聞いて、黒崎くんは少しだけ眉をひそめた。
「ふーん」
興味なさそうに前を向く……と思ったら、
「やけに近かったな」
「そう?」
「そう」
瀬名くんと同じ反応。
「別に、普通でしょ」
「……まあいい」
それ以上は何も言わず、黒崎くんはノートに視線を戻した。
でも、さっきよりペンを走らせる音が強い気がする。
前のほうでは、月城くんが静かに黒板を見ていた。
横顔はいつも通り落ち着いているけど、
一瞬だけ、こちらに視線が向いた気がした。
目が合う前に、すぐ逸らされる。
――たぶん、全部分かってる。


