鈍感な私は愛されヒロインです!?

 放課後。

 教室を出ると、廊下はまだ少しざわついていた。
 他のクラスの生徒も行き交っていて、いつもより人が多い。

「あ、桜庭先輩」

 声をかけられて振り向くと、桐谷くんが立っていた。

「おつかれさま、桐谷くん」

「おつかれさまです」

 少し間があって、桐谷くんは言いづらそうに視線を逸らす。

「……少し、いいですか」

「うん、なに?」

 廊下の端に移動すると、桐谷くんは一度息を吸った。

「その……呼び方のことなんですけど」

「呼び方?」

「はい」

 指先をぎゅっと握る。

「ずっと“桐谷くん”って呼ばれてるの、嫌じゃないんです。でも……」

 一瞬、言葉が止まる。

「できれば、下の名前で呼んでほしくて」

「下の名前?」

「……蒼、です」

 顔が、分かりやすく赤い。

「無理なら大丈夫です。急に変ですよね」

「そんなことないよ」

 自然に言葉が出た。

「じゃあ……蒼くん?」

 呼んだ瞬間、桐谷くんが少し驚いたように目を見開く。

「……はい」

 声が、さっきより柔らかい。

「ありがとうございます!」

「大げさだなあ」

 そう言いながら、胸のあたりが少しだけ落ち着かない。