鈍感な私は愛されヒロインです!?

最初の授業は数学。

 黒板に向かって先生が説明を始めた、その直後。

「あ、やば」

 瀬名くんが小さく呟く。

「なに?」

「プリント、俺のとこ来てない」

 確かに、瀬名くんの机の上だけ何もない。

「回ってきてないかも」

「だよねー。ひより、悪いんだけどさ」

 そう言って、私のプリントをちらっと見る。

「ちょっとだけ見せて」
「ちょっとだけね」

机を寄せて、プリントを半分ずらす。
思ったより距離が近くて、少しだけ肩が触れた。

「……字きれいだね」

「そこ?」

「いや、内容より気になった」

「集中して」

「はいはい」

 小声のやり取りに、思わず笑いそうになる。

 先生に当てられないように、私は急いで視線を黒板に戻した。

 授業が進む中で、瀬名くんはちゃんとノートも取っている。
 ふざけてるように見えて、意外と真面目だ。

 授業が終わってチャイムが鳴ると、教室は一気に騒がしくなった。

「助かったわ、新入り」

「だから新入りじゃない!」

「はいはい」

 また笑う。

「でもさ」

 瀬名くんは少しだけ声を落とした。

「こうやって普通に授業受けてるの、意外だった」

「どういう意味?」

「もっと大人しいタイプかと思ってた」

「失礼だな」

「いや、悪い意味じゃないよ」

そう言って、肩をすくめる。

「ちゃんとしてるなって思っただけ」

 一瞬、どう返せばいいか分からなくて、私は言葉に詰まった。

「……ありがとう?」

「どういたしまして」

 軽い調子に戻る瀬名くん。

 休み時間の教室は相変わらず騒がしいけど、その中での会話は、なんだか不思議と落ち着いていた。