鈍感な私は愛されヒロインです!?

私が先に外へ出ると、少し遅れて月城くんも歩き出した。




――だから、気づかなかった。


少し離れた廊下の角に、黒崎くんがいたことを。

壁にもたれて、腕を組んだまま。
さっきまでのやり取りを、全部じゃないにしても、十分すぎるほど見ていた。

月城くんが一人になったタイミングで、黒崎くんはゆっくり近づく。

「……足、たいしたことなさそうだったな」

ぶっきらぼうな声。
でも、それは黒崎くんなりの確認だった。

「軽い捻挫だ。もう大丈夫だと思う」

「そっか」

それだけ言って、黒崎くんは視線を逸らす。
からかいも、余計な一言もない。

「……ありがとな」

月城くんは一瞬だけ驚いた顔をしてから、すぐに表情を戻した。

「当たり前だろ」

短い会話。
でも、その空気には、はっきりとしたものがあった。

黒崎くんは月城くんを一度だけ見て、低く言う。

「無理させんなよ」

「分かってる」

それで終わり。
それ以上、何も言わずに黒崎くんは歩き出した。

夕方の校舎に、足音だけが残る。

月城くんはその背中を見送りながら、ほんの少しだけ、考える。

――あいつ、気づいてたな。

そして同時に、胸の奥に残る小さな違和感にも。