鈍感な私は愛されヒロインです!?

 放課後のチャイムが鳴っても、すぐに立ち上がる人は少なかった。
 机を引く音、椅子を戻す音が、だらだらと教室に残っている。

 私もその中の一人で、ノートを閉じたまま、しばらく席に座っていた。
 帰る理由がないわけじゃない。ただ、急ぐ理由もなかっただけ。

「まだ帰んないの?」

 気づいたら、すぐ隣から声がした。
 顔を上げると、月城くんが私の机にもたれかかっている。

「うん。ちょっとだけ」

 そう答えながら、距離が近いことに、特別な違和感はなかった。
 いつからだろう。
 月城くんが隣にいるのが、こんなふうに当たり前になったのは。

「桜庭さ、最近ずっと残ってるよな」

「そう?」

 自分では、あまり意識してなかった。
 でも言われてみれば、確かにそうかもしれない。

 月城くんはそれ以上何も言わず、
ただ、私の机の横に立ったまま、外を見ていた。

 沈黙が流れる。
 でも、気まずさはない。

 肘と肘が、ほんの少し触れそうな距離。
 触れてないのに、近い。

 ――近すぎる。

 そう思ったはずなのに、
私は席を立つことも、距離を取ることもしなかった。

「……帰る?」

 月城くんが、いつもより少しだけ低い声で聞いてくる。

「もう少ししたら」

 そう答えると、
月城くんは小さく笑って、「じゃあ、俺も」と言った。

 理由は聞かなかった。
 聞かなくても、いい気がしたから。

 それが普通みたいで、
それが“いつもの距離”みたいで。

 ノートをカバンにしまおうとして、手が止まった。
 月城くんの腕が、思ったより近い。

 近いけど、触れてはいない。
 でも、動かしたら当たりそうで、動けなかった。