鈍感な私は愛されヒロインです!?

「桜庭」

 名前を呼ばれて顔を上げると、月城くんが立っていた。

「次、移動教室だよ」

「あ、ありがとう。忘れてた」

 それだけのやり取り。
 なのに、周りの空気が一瞬止まった気がした。

「……なに?」

 聞いても、誰も答えてくれない。

 理科室への移動中も、妙だった。
 少し前を歩く月城くんと、なぜか一定の距離が保たれている。
 追いつこうとすると、同じだけ進まれて、離れようとすると、少しだけ待たれる。

 合わせてる……?
 いや、考えすぎ。

 授業が終わって、エプロンを外しながら、私は小さく息をついた。

「ひより」

 後ろから瀬名くんの声。

「ひよりって、ほんと無自覚だよね」

「なにが?」

「全部」

 意味が分からない。
 そう言おうとしたら、瀬名くんはもう歩き出していた。

 昼休み、いつもの席でお弁当を広げる。
 月城くんは少し遅れて来て、何事もなかったみたいに座った。

 それだけで、なぜか安心する。

 「桜庭」

 黒崎くんが短く呼ぶ。

「お前さ」

「なに?」

「いや、いい」

 よくない言い方だと思う。

 結局、その日一日、私はずっと分からないままだった。
 みんなの様子が少しずつ違う理由も、視線が増えた理由も。

 放課後、鞄を持って立ち上がる。
 月城くんが同じタイミングで席を立った。

 それだけで、また胸の奥が静かに揺れる。

 ……本当に、なんなんだろう。

 答えは出ない。
 でも一つだけ分かることがあるとしたら。

 たぶん――
 何かに気づいてないのは、私だけだ。