鈍感な私は愛されヒロインです!?

 昼休みも半分くらい過ぎた頃。

 教室のドアが、静かに開いた。

 その瞬間、
自分でも驚くくらい、自然に顔が上がる。

 そこに立っていたのは――

 月城くんだった。

 少し遅れて、いつも通りの表情。
 でも、目が合った一瞬、ほんのわずかに驚いたように見えた。

「……おはよ」

「お、おはよう」

 声を聞いた瞬間、
胸の奥が、すっと落ち着く。

 そのことに気づいて、
私は少しだけ戸惑った。

 ……なんで?

 月城くんは席に向かいながら、私の方を一度だけ見る。

「遅れてごめん」

「ううん」

 それだけのやり取り。

 それなのに。

「……よかった」

 小さく呟いた自分の声に、
私は気づかないふりをした。



 チャイムが鳴って、教室の空気がゆっくりほどけていく。
 机を引く音、鞄のファスナーの音、誰かの笑い声。夕方の光が窓から差し込んで、黒板の文字を薄くにじませていた。

 私はノートを鞄にしまいながら、ふと前を見た。
 月城くんが、まだ席にいる。

 ……珍しいな、と思っただけ。
 それ以上の意味はない、はず。

 黒崎くんと瀬名くんは先に出ていって、教室には人がまばらになる。
 私は立ち上がって、肩に鞄をかけた。

「帰る?」

 声をかけると、月城くんは少しだけ驚いた顔をしてから頷いた。

「うん」

 廊下に出ると、放課後特有のざわめきが広がっていた。
 どこかの教室から笑い声がして、遠くで部活の掛け声が重なる。
 私たちは並んで歩く。肩が触れないくらいの、ちょうどいい距離。