鈍感な私は愛されヒロインです!?

 午後の授業は、正直あまり覚えていない。
 黒板に書かれる文字を追いながら、時々ノートを取って、また前を見る。その繰り返しだった。

 後ろの方で、黒崎くんが先生に名前を呼ばれている。
 いつも通り、机に突っ伏していたらしい。

「起きてろ」

 先生の声に、教室のあちこちから小さな笑いが起きる。
 瀬名くんもそれを聞いて、少し笑っていた。

 前の席では、月城くんが静かに板書を写している。
 姿勢もペンの動きも変わらなくて、午後でも集中が切れないみたいだった。

 チャイムが鳴るたびに、少しずつ時間が進んでいく。
 気づけば、窓の外が少しだけオレンジ色になっていた。

 最後のチャイムが鳴ると、教室の空気が一気にゆるんだ。

 私はノートを閉じて、教科書を鞄にしまった。

「今日は部活ないんだっけ?」

 後ろから、瀬名くんの声がする。

「うん、今日はないよ」

「じゃあ、まっすぐ帰る感じ?」

「たぶん」

 曖昧に答えると、瀬名くんは「ふーん」とだけ言って、それ以上は聞いてこなかった。

 黒崎くんは、机に鞄を放り投げて立ち上がる。
 そのまま出口に向かおうとして、途中で足を止めた。

「桜庭」

 呼ばれて振り向くと、黒崎くんは一瞬だけ視線を逸らす。

「……気ぃつけて帰れよ」

 それだけ言って、教室を出ていった。

 突然すぎて、返事が少し遅れる。

「う、うん」

 何だったんだろう、今の。