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・【08 カジカガエルを総指揮するあやかしさん】
・
琢磨がふとこう言った。
「そろそろカジカガエルが本格的に鳴きだす頃だな」
カジカガエル。
美しい声で鳴くカエルで、五月から七月まではこの妻籠宿周辺の風物詩だ。
このカジカガエルのあやかしさんもいて、それはそれは天使のような美少女だ。
薄いエメラルドグリーンの髪の毛に、しっとりとしたキューティクルのロング。
女子の憧れのような髪質をしている。
そんなことを脳内で反芻していると、琢磨が、
「カジカガエルのあやかしさんのカジエちゃんは、本当髪質が綺麗だよな」
ほら、コイツも言ってる。
みんな思うこと。
琢磨は私のほうを見ながら、
「オミソのボサボサとは大違いだな」
「私だって結構キューティクルだし」
「キューティというか、ブスだな」
とクスッと笑いながら言った琢磨に、私はマンキンの、
「そんなことないし!」
という言葉で対抗したわけだけども、琢磨は変わらぬ調子で、
「ブスクルだな」
「全然ブスは来ないし! 私には福しか来ないし!」
「鬼も逃げ出すほどの緑色の髪にブスクル一丁」
「茹でる前で枝豆みたいな青臭い香り発してないし! 花の良い香りだし!」
と私はツッコんだんだけども、琢磨は同じ調子で、
「ハエを寄せ集めるほうの香りな」
「全然おいしいハチミツ収穫できる花だし!」
「オマエのハチミツ摂取すると、喉が荒れそう」
「めっちゃ喉に良いし! 良い声しか出なくなるし!」
「四畳半にしか響かない、だみ声な」
「全然遠くまで届くし! 透き通った声出すし!」
と私はデカ声で否定した。
琢磨は淡々と、
「弾道ミサイルみたいな攻撃的な声な」
と言って私はムカムカしながら、
「優しい南風のような温かい声出すし!」
「植物を枯らすほどの熱波な」
「植物に潤いを持たせる恵みの声だし!」
と、いくら声を張り上げても、琢磨は立て板に水で、
「ベチャベチャの酸性雨な」
と悪口を言ってきて、私は返すしかない。
「全然違うし! 純然たる雨だし! しとしとと降り続ける植物に最も良い雨だし!」
「あぁ、ジメジメさせて気分を落とさせる雨な」
「でも雨上がりにちゃんと虹が出るほど晴れるし!」
「黒と紫が交互に出ているだけのアザみたいな虹な」
「ちゃんと七色しっかり出てるし!」
琢磨は全くこっちの意に返さないように、
「でも誰にも見向きされなくて」
「みんな喜んで指差すほうの虹だわ!」
「その虹を指差すと縁起が悪いと言い伝えられている」
「そんな虹無いし! そんな馬鹿な言い伝えのある村出身の琢磨には分からないだろうけどねっ!」
と少しチクッとした言葉を言ってみると、琢磨は鼻高々に、
「俺の村は百万石の武将の御膝元」
と言い出したので、私はこっからやり返してやると思って、
「でも裏で悪いことしていっぱいして稼いだ百万石でしょ!」
という琢磨がいつも言っているようなことを言ってみると、
「そして裏で悪いことをいっぱいして島流しになった女子がこちらです」
と私に手を向けてきた琢磨。
いや!
「そんな順当にいってたまるか! 裏で悪いことして表でチヤホヤされてやるわ!」
「うわっ、性格悪っ」
「いやこんだけ意味無く悪口言うほうが性格悪いでしょ!」
と私が声を荒らげたところで、近くから声がした。
「クスクス、本当に漫才みたいだね、琢磨くんとオミソちゃんは」
私のことをオミソと呼ぶのは琢磨しかいない。
それかあったとしても強気になった時の小学校の男子ぐらいしかいない。
しかし”オミソちゃん”と呼ぶ人はいる。オミソにちゃん付けをする人がいる。
それは完全に一人しかいなくて、一人というか、あやかしさんだ。
そう、さっき最初に話題になったカジエちゃんだ。
私は慌てて、
「あっ! いつの間に! いらっしゃいませ!」
と頭を下げると、カジエちゃんは上品に口元を手で隠しながら笑って、
「いいの、いいの、バレずに入って来たからさ」
そう言って、しゃんなりと上品に席へ着いたカジエちゃん。
このカジカガエルの季節になると、いつもより荘厳な雰囲気を纏うカジエちゃん。
今日も今日とて絶好調といった感じだ。
しかし本人は少し様子がおかしいようで、カジエちゃんは喉のあたりを抑えながら、
「これからアタシ、カジカガエルたちを指揮して、合唱を奏でないといけないんだけども、ちょっとノドの調子が悪くてね」
確かにカジエちゃんは少し声を落として、物静かに喋っているような感じだ。
カジエちゃんは自分の喉を労わるように落ち着いた声で、
「激しく動いちゃうと、テンション上がっちゃって意味無くハツラツと喋ってノドを痛めそうでね。だから静かにバレないような感じで動いていたんだ」
「そうだったんだっ、ハチミツのハーブティーでも用意しましょうか?」
と私が言うと、カジエちゃんはキューティクルの髪を揺らしながら、
「うん、頼むよ……それと」
と喋って間を取ったカジエちゃん。
もしやツバツさんやハナマさんのような料理の依頼か。
いやでも私も結構自信がついてきた。
もし依頼があったとしても、良いですよとハッキリ言ってしまおう、と身構えていると、カジエちゃんは琢磨に微笑みかけながら、
「やっぱり、琢磨くんはいつも可愛いねっ」
と言って中腰をあげて、近くに立っていた琢磨の頭をポンポンしたので、何か、
「ダメーッ!」
と叫んでしまった。
それに目を見開いたカジエちゃんが、
「何なに? オミソちゃんもポンポンしてほしかったの?」
「そ! そうじゃないですけどもっ!」
と私が何か額から汗を吹き出していると、琢磨が少し不満げに、
「いや逆に俺はポンポン嫌だったから、子供扱いは嫌だから、オミソ、オマエがポンポンしてもらえ」
そう言って私の肩を掴んで押して、カジエちゃんに私を差し出した。
「オミソちゃんは甘えたがりだなぁっ」
そう言いながらポンポンしてきたカジエちゃん。
いやあやかしさんのほうが長生きしているということは知ってるけども、どう見ても私たちと同じくらいの年齢に見えるんだよなぁ。
そんなことを思っていると、カジエちゃんが、
「そうそう、ツバツさんやハナマさんみたいに、アタシにもスペシャルな料理作ってほしいんだ」
と言ったので、私はツッコミのテンションで、
「いやそれもあるんですかっ!」
それに対してカジエちゃんはにっこりと無邪気に微笑みながら、
「おっ、予想していたわけだっ、オミソちゃんも賢くなったなぁ」
さらにポンポンされたが別に嬉しくない。
何故なら”賢くなったなぁ”という台詞は元々馬鹿だと思っていないと出てこない台詞だから。
しかし、それにしてもポンポンが長い。
何だ、こんなに叩かれると馬鹿になってしまうぞ。賢くなった今からまたあの頃に退化してやろうか。
いやあの頃なんてないわ! ……て!
「確かにオミソは賢くなったなぁ、はいはい」
いや!
「琢磨が私をポンポンしてる!」
「俺もオミソが賢くなって嬉しいぞ」
「いやいやいや! やめろ! 子供扱いするなっ!」
何だよっ、そう言えば急に手が温かくなったなぁ、と思ったら琢磨がポンポンしていたんかい!
カジエちゃんはちょっと手が冷ためだからねっ! というか! あぁっ! もう!
私のリアクションを見て、アハハと屈託なく笑う琢磨。
何だコイツ、めっちゃ腹立つな。何か変にモヤモヤするし。最悪だ。
カジエちゃんは柏手一発叩いてから、
「じゃあまあアタシの本題に戻して、是非ノドに良いスペシャルな料理を作ってほしいんだ」
それに対して琢磨は胸を自信ありげに叩きながら、
「分かりました、作りましょう。また一緒に作ろうな、オミソ」
と言ってこっちに微笑みかけてきた。
「当たり前だし! というか私一人でも作れるし!」
「いやいや、ここは二人一緒に作ってもらいたいな、一人じゃ浮かばないこともあるからね」
と言ったカジエちゃん。
琢磨のほうをじっと見る私。琢磨はそれに気付いて、こっちを見て優しく頷いた。
いやまあ、別にいいけどさ……何かモヤモヤするな……琢磨ばっかりなんか大人ぶっちゃって……。
でもここでOK出さないと、それこそ私の器が小さいみたいだからまあいいとするか。
なんせ私はオトナだからな。
そしてあやかしさん側のカフェ閉店後、また一緒に考えだした。
・【08 カジカガエルを総指揮するあやかしさん】
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琢磨がふとこう言った。
「そろそろカジカガエルが本格的に鳴きだす頃だな」
カジカガエル。
美しい声で鳴くカエルで、五月から七月まではこの妻籠宿周辺の風物詩だ。
このカジカガエルのあやかしさんもいて、それはそれは天使のような美少女だ。
薄いエメラルドグリーンの髪の毛に、しっとりとしたキューティクルのロング。
女子の憧れのような髪質をしている。
そんなことを脳内で反芻していると、琢磨が、
「カジカガエルのあやかしさんのカジエちゃんは、本当髪質が綺麗だよな」
ほら、コイツも言ってる。
みんな思うこと。
琢磨は私のほうを見ながら、
「オミソのボサボサとは大違いだな」
「私だって結構キューティクルだし」
「キューティというか、ブスだな」
とクスッと笑いながら言った琢磨に、私はマンキンの、
「そんなことないし!」
という言葉で対抗したわけだけども、琢磨は変わらぬ調子で、
「ブスクルだな」
「全然ブスは来ないし! 私には福しか来ないし!」
「鬼も逃げ出すほどの緑色の髪にブスクル一丁」
「茹でる前で枝豆みたいな青臭い香り発してないし! 花の良い香りだし!」
と私はツッコんだんだけども、琢磨は同じ調子で、
「ハエを寄せ集めるほうの香りな」
「全然おいしいハチミツ収穫できる花だし!」
「オマエのハチミツ摂取すると、喉が荒れそう」
「めっちゃ喉に良いし! 良い声しか出なくなるし!」
「四畳半にしか響かない、だみ声な」
「全然遠くまで届くし! 透き通った声出すし!」
と私はデカ声で否定した。
琢磨は淡々と、
「弾道ミサイルみたいな攻撃的な声な」
と言って私はムカムカしながら、
「優しい南風のような温かい声出すし!」
「植物を枯らすほどの熱波な」
「植物に潤いを持たせる恵みの声だし!」
と、いくら声を張り上げても、琢磨は立て板に水で、
「ベチャベチャの酸性雨な」
と悪口を言ってきて、私は返すしかない。
「全然違うし! 純然たる雨だし! しとしとと降り続ける植物に最も良い雨だし!」
「あぁ、ジメジメさせて気分を落とさせる雨な」
「でも雨上がりにちゃんと虹が出るほど晴れるし!」
「黒と紫が交互に出ているだけのアザみたいな虹な」
「ちゃんと七色しっかり出てるし!」
琢磨は全くこっちの意に返さないように、
「でも誰にも見向きされなくて」
「みんな喜んで指差すほうの虹だわ!」
「その虹を指差すと縁起が悪いと言い伝えられている」
「そんな虹無いし! そんな馬鹿な言い伝えのある村出身の琢磨には分からないだろうけどねっ!」
と少しチクッとした言葉を言ってみると、琢磨は鼻高々に、
「俺の村は百万石の武将の御膝元」
と言い出したので、私はこっからやり返してやると思って、
「でも裏で悪いことしていっぱいして稼いだ百万石でしょ!」
という琢磨がいつも言っているようなことを言ってみると、
「そして裏で悪いことをいっぱいして島流しになった女子がこちらです」
と私に手を向けてきた琢磨。
いや!
「そんな順当にいってたまるか! 裏で悪いことして表でチヤホヤされてやるわ!」
「うわっ、性格悪っ」
「いやこんだけ意味無く悪口言うほうが性格悪いでしょ!」
と私が声を荒らげたところで、近くから声がした。
「クスクス、本当に漫才みたいだね、琢磨くんとオミソちゃんは」
私のことをオミソと呼ぶのは琢磨しかいない。
それかあったとしても強気になった時の小学校の男子ぐらいしかいない。
しかし”オミソちゃん”と呼ぶ人はいる。オミソにちゃん付けをする人がいる。
それは完全に一人しかいなくて、一人というか、あやかしさんだ。
そう、さっき最初に話題になったカジエちゃんだ。
私は慌てて、
「あっ! いつの間に! いらっしゃいませ!」
と頭を下げると、カジエちゃんは上品に口元を手で隠しながら笑って、
「いいの、いいの、バレずに入って来たからさ」
そう言って、しゃんなりと上品に席へ着いたカジエちゃん。
このカジカガエルの季節になると、いつもより荘厳な雰囲気を纏うカジエちゃん。
今日も今日とて絶好調といった感じだ。
しかし本人は少し様子がおかしいようで、カジエちゃんは喉のあたりを抑えながら、
「これからアタシ、カジカガエルたちを指揮して、合唱を奏でないといけないんだけども、ちょっとノドの調子が悪くてね」
確かにカジエちゃんは少し声を落として、物静かに喋っているような感じだ。
カジエちゃんは自分の喉を労わるように落ち着いた声で、
「激しく動いちゃうと、テンション上がっちゃって意味無くハツラツと喋ってノドを痛めそうでね。だから静かにバレないような感じで動いていたんだ」
「そうだったんだっ、ハチミツのハーブティーでも用意しましょうか?」
と私が言うと、カジエちゃんはキューティクルの髪を揺らしながら、
「うん、頼むよ……それと」
と喋って間を取ったカジエちゃん。
もしやツバツさんやハナマさんのような料理の依頼か。
いやでも私も結構自信がついてきた。
もし依頼があったとしても、良いですよとハッキリ言ってしまおう、と身構えていると、カジエちゃんは琢磨に微笑みかけながら、
「やっぱり、琢磨くんはいつも可愛いねっ」
と言って中腰をあげて、近くに立っていた琢磨の頭をポンポンしたので、何か、
「ダメーッ!」
と叫んでしまった。
それに目を見開いたカジエちゃんが、
「何なに? オミソちゃんもポンポンしてほしかったの?」
「そ! そうじゃないですけどもっ!」
と私が何か額から汗を吹き出していると、琢磨が少し不満げに、
「いや逆に俺はポンポン嫌だったから、子供扱いは嫌だから、オミソ、オマエがポンポンしてもらえ」
そう言って私の肩を掴んで押して、カジエちゃんに私を差し出した。
「オミソちゃんは甘えたがりだなぁっ」
そう言いながらポンポンしてきたカジエちゃん。
いやあやかしさんのほうが長生きしているということは知ってるけども、どう見ても私たちと同じくらいの年齢に見えるんだよなぁ。
そんなことを思っていると、カジエちゃんが、
「そうそう、ツバツさんやハナマさんみたいに、アタシにもスペシャルな料理作ってほしいんだ」
と言ったので、私はツッコミのテンションで、
「いやそれもあるんですかっ!」
それに対してカジエちゃんはにっこりと無邪気に微笑みながら、
「おっ、予想していたわけだっ、オミソちゃんも賢くなったなぁ」
さらにポンポンされたが別に嬉しくない。
何故なら”賢くなったなぁ”という台詞は元々馬鹿だと思っていないと出てこない台詞だから。
しかし、それにしてもポンポンが長い。
何だ、こんなに叩かれると馬鹿になってしまうぞ。賢くなった今からまたあの頃に退化してやろうか。
いやあの頃なんてないわ! ……て!
「確かにオミソは賢くなったなぁ、はいはい」
いや!
「琢磨が私をポンポンしてる!」
「俺もオミソが賢くなって嬉しいぞ」
「いやいやいや! やめろ! 子供扱いするなっ!」
何だよっ、そう言えば急に手が温かくなったなぁ、と思ったら琢磨がポンポンしていたんかい!
カジエちゃんはちょっと手が冷ためだからねっ! というか! あぁっ! もう!
私のリアクションを見て、アハハと屈託なく笑う琢磨。
何だコイツ、めっちゃ腹立つな。何か変にモヤモヤするし。最悪だ。
カジエちゃんは柏手一発叩いてから、
「じゃあまあアタシの本題に戻して、是非ノドに良いスペシャルな料理を作ってほしいんだ」
それに対して琢磨は胸を自信ありげに叩きながら、
「分かりました、作りましょう。また一緒に作ろうな、オミソ」
と言ってこっちに微笑みかけてきた。
「当たり前だし! というか私一人でも作れるし!」
「いやいや、ここは二人一緒に作ってもらいたいな、一人じゃ浮かばないこともあるからね」
と言ったカジエちゃん。
琢磨のほうをじっと見る私。琢磨はそれに気付いて、こっちを見て優しく頷いた。
いやまあ、別にいいけどさ……何かモヤモヤするな……琢磨ばっかりなんか大人ぶっちゃって……。
でもここでOK出さないと、それこそ私の器が小さいみたいだからまあいいとするか。
なんせ私はオトナだからな。
そしてあやかしさん側のカフェ閉店後、また一緒に考えだした。



