妻籠宿のあやかしさんたち


・【06 美しい料理って何?】


 あやかしさんサイドのカフェは午後五時には閉店になる。
 その閉店直後から二人で考えることにした。
 五月末旬になると、もう午後五時でもまだ明るい。
 ただの空模様なんだけども、明るいとやっぱり心持ちもまだまだこれからって感じになる。
 でも、でもだ、
「美しい料理って何だろうな」
 ふと琢磨がそう言ったが、まさしくそれが真理だと思う。
 だって人にとって美しいってそれぞれだもんなぁ。
 まあ人じゃなくて、あやかしさんだけども。
 気持ちはこっからだ! って感じでも、議題はなかなかハードというか難しい。
 美しいって、それはそれで、それぞれだろうから。
 私は小首を傾げながらも、
「やっぱり色鮮やかな、虹みたいな料理ってことじゃない?」
 すると琢磨はまたいつもの言う感じでニヤリと笑ってから、
「美しいイコール虹って発想が貧困だな、色数だけでしか物事考えていないの?」
「いやそういうことじゃないし! 青空に虹とか綺麗じゃん!」
「でも青空は空だからいいんだろ、食事の時に青はダメだろ。食欲を失わせる効果のある色じゃん、青って」
「じゃあ虹単独! 虹単体なら!」
「いやでも虹にも青あるし、食紅とかで色付けると絵の具感が出て、美しさは無くなるんだよな」
 と琢磨は否定してきたので、じゃあって感じで私は切り返すように、
「じゃっ、琢磨は何か考えがあるんだろうねっ! そんなに否定するということは!」
「ハナマさんが美しいと思うモノを考えるということだろ?」
「ハナマさんが美しいと思うモノ……何だろう、絵画かな」
 と、ついまた私が案を出してしまうと、琢磨は笑いながら、
「何でそんなに絵の具のほうへいこうとしているんだよっ」
「いや絵の具のほうにいこうとはしていないよ!」
「いやもう絵の具のチューブに口つけて飲もうとしてるじゃん」
「全然そのレベルまでいっていないし!」
「この絵の具を飲んで、この色のオーラを出すんだっ、とか言いながらさ」
「そんな馬鹿じゃないわ! オーラは絵の具で決定しないし! 多分!」
 と私が声を荒らげると、琢磨が少し小バカにするように、
「黄色い絵の具をグングン飲んでいって」
「いやだからオナラじゃないし! オナラのオーラを自ら出しにいってないし!」
「いや俺は黄色い声援みたいな、人気のオーラを出すというつもりで黄色って言ったんだけども」
「引っ掛けじゃん! 絶対そういう意味じゃなかったし! 最初の! 出始めは!」
「出始めってなんだよ、オナラみたいに言うなよ」
 私はちょっと気持ち熱くなりながら、
「出始めイコール、オナラって何だよ! そっちのほうがおかしいだろ!」
「よく格闘ゲームとかで出始め無敵になるとかあるけどさ、オミソはオナラの出始め無敵になりそうだな」
「何だよ! オナラの出始め無敵って! それディスってんのか! それとも褒めてんのか、もはや分かんないわ!」
「いやもうオナラを極めすぎて」
「じゃあディスってんな! オナラ極めるほど出してないし! そもそも女子はオナラなんてしないし!」
 とつい早口で言ってしまうと、琢磨は琢磨で淡々と、
「いやそこは男子も女子も隔たりなくオナラするだろ。男女平等の世界観だろ」
「そんなところで男女平等を振りかざすな! いいの! 女子はオナラしないでいいのっ!」
「オナラしないとあとあと大変になるけども、大丈夫か?」
「そんな心配いらないし! というかハナマさんの話はどうしたんだよ!」
 と激ツッコミをしたところで、琢磨がふと、
「ハナマさんも黄色いオーラ出してそうだな」
「いやっ、いない人の悪口止めろよ!」
「いやいや花粉って意味で」
「黄色って結構いっぱいあるな! チクショウ!」
 と派手に肩を落としてしまった私。
 琢磨はクスクス笑いながら、
「オナラうんぬんよりも女子がチクショウって言うなよ。オナラは生理現象だけどもチクショウは口の悪い言葉だろ」
「正論を吐くな!」
「というかハナマさんが美しいと思うことは、まさしくこれだと思うんだよね」
「オナラかっ!」
「いやだからオナラじゃなくて、花粉ね、というか花ね、花」
「……花かっ!」
 とついデカい声で言ってしまった私。
 琢磨は冷静に続ける。
「そう、自分が美しいと思うモノをいつも身に着けているモノでしょ、普通に考えて」
「じゃあ早くそう言えよ!」
「一応、いろいろ考えていたんだよ、いろいろ考えながら会話していたんだよ」
「会話しなくていい! 考えることに集中しろ!」
「いやでもオミソと会話するの楽しいからさっ」
 何だ、余裕そうに笑いやがって。そんなに馬鹿に見えるかっ。全く、琢磨は腹立つなぁ。
 琢磨はふーっと一息ついてから、
「まあとにかく、だからこの花を使った料理をしてみてもいいかもしれない」
「……でもさ、花が好きなんだから、花を食べたくはないんじゃないのかな?」
 私がそう言うと、う~んと唸りながら俯いた琢磨は、
「確かにその可能性もあるんだけども、でもなぁ、それ以外のことも浮かばないし。逆にオミソは何か案ある?」
 チクショウ! あるはずないだろ! 絵画がマックスだよ!
「いやまあ、無いけども……」
 と口を尖らせながら言うと、琢磨がうんうん頷きながら、
「じゃあ花でいってみてもいいと思う。花と言えばエディブル・フラワーだよな。生産段階から食用にも耐えられるような肥料を使って育てた花」
「でもそれをサラダに散らすみたいなことでしょ、それって安易じゃない? それこそただ花を食ってる感が出て、不快と言えば不快なんじゃ……」
「確かに、花感が強いよな、かわいそうで食べられないみたいな感じにはしたくないな」
 そこで私は思いついたことを言うことにした。
「じゃあさ、花ズッキーニなんてどう? 野菜だし、本当の花が散らしてあるよりは食べやすくない?」
「……花ズッキーニって何?」
 おいおい、花ズッキーニを知らないとは。
 どうやら食知識のほうは私が上回っているようだな! いいぞ! この優越感!
 私は鼻高々で喋り出した。
「花ズッキーニというのは、花がついた状態のズッキーニで、ズッキーニ自体はまだ未熟なんだけども、ちゃんと食べれて、その花も一緒に食べられるの。そして花に挽肉とかを詰めてフライパンで焼くのっ!」
「ちゃんと花の形が残って、火も通るのか?」
「そうそう! 大丈夫だよ!」
「じゃあそれで決定だな、ありがとう。やっぱり食べ物の知識だけは詳しいな、オミソは」
「いや食べ物以外も詳しいし! 食いしん坊みたいに言うな!」
 そんなこんなで言い合いをしながらも、私と琢磨はどんどんメニュー案を固めていった。