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・【16 サヨナさんは異性が良い】
・
サヨナさんがカフェに来店し、
「さぁっ! 美園ちゃんの愛の料理! 楽しみに待ってるぜ!」
とホールの私に声を掛けてくれた。
というわけで、こっからは、と、私は厨房に入り、琢磨と一緒に料理することにした。
今回作る料理はキャベツのキムチ鍋だ。
豆苗の根元をカットし、バラバラにし、キャベツは豆苗のような細さに千切りし、豚バラ肉を入れてキムチ味の鍋で煮る料理。
さてと、早速私がキャベツを千切りにしようかなと思ったその時、琢磨が先にまな板の前に立った。
いやいや、
「琢磨は味付けのほうやって」
すると、琢磨は首を横に振って、
「俺が千切りするよ」
と言ってキャベツと包丁を持った。
えっ、
「琢磨は包丁使えないでしょ?」
「いや、もう大丈夫なんだ。俺もこれから包丁を使うよ」
「いやいや! 急に包丁とか危ないよ!」
と言うと、厨房にいた田中さんがこう言った。
「ううん、琢磨くんは時間がある時に厨房で包丁の練習をしていてね。私たちが見ている前でやっていたからもう完璧だよっ」
……! そうか! たまに琢磨が厨房の奥のほうに行くと思ったけども、そういうことだったんだ!
というか!
「何で黙ってたんだっ!」
「いいじゃん、何か練習してるって言うの恥ずかしくてっ」
「何も恥ずかしくないし!」
「でもこれで、もう、オミソに任せっきりじゃないな」
そう言ってキャベツの千切りをし始めた琢磨。
まだちょっとたどたどしい部分もあるけども、一生懸命な横顔がなんだか誇らしかった。
さてと、じゃあ私は味付けのほうをしようかな。
キムチを入れるだけでは味が締まらないので、酒、本物の味噌、コチュジャン、琢磨が固執していたおろしたにんにく、ごま油、オイスターソース、おろしたショウガ、おろしたタマネギを入れる。
さらに隠し味にすりおろしたリンゴを入れて甘みを追加することにより、辛さとの対比が生まれて、辛いのに旨くて甘みがあって、だからこそ辛いといった複雑な味になる。これでスープは完成。
そこに豚肉、キムチ、豆苗、キャベツとそしてこれは私がピーラーで薄くスライスした大根を入れて、キムチ鍋の完成だ。
大根はピーラーで薄くスライスすることにより、食材との馴染みが良くなり、また薄いので味も染みやすくなる。
という感じで、キムチ鍋を持って、サヨナさんのテーブルに出した。
「これはアツアツで心の底からアツアツになれそうだなっ! いただきます!」
そう言って、小皿にとりわけたサヨナさんは、箸で具を掴んだその時だった。
「ちょっと熱そうだな! 美園ちゃん! フーフーしてくれないかなっ!」
と優しい笑顔で甘えてきたので、どうしようかなと思う間も無く、隣に立っていた琢磨が優しくフーフーして、
「どうぞ、食べて下さい」
それに対してサヨナさんは大笑いしながら、
「いや俺は美園ちゃんに言ったんだけどもっ!」
「誰の空気でも同じはずです」
「いや全然違うだろっ!」
「足りなかったですか?」
「……はぁーーーー、もういいよっ!」
と長い溜息をついてから、優しい笑顔になって食べ始めたサヨナさん。
その長い溜息が一番冷ませそうだなと思った。
さてさて、味はどうだろうかっ。
「……んっ! キムチのピリ辛さが豚肉の脂をサッパリさせるなぁっ! キャベツと豆苗の歯ごたえもちょうど残っていて旨い! 逆に大根は柔らかくてそれがいい!」
どうやらおいしかったみたいだ。ホッと一息。
この息はあんまり冷ませそうにないかな。
サヨナさんは箸を持っていないほうの拳を強く握って、
「よーしっ! 来月の下旬の和智埜神社祭礼は盛り上げるぞーっ!」
そう言っても、あやかしさんはいざ本気の舞台には立てないよなぁ、とは思った。観光客には見えないから。
まあ水を差してもアレなので、私はそう言ったサヨナさんを盛り上げるために、小さく拍手をしていると、その手をガッと掴んできたサヨナさんが、
「美園ちゃんも楽しみに待っていてくれよな! あやかしは住民のためにやるんだから!」
「はっ、はい!」
急なことでビックリしたけども、すごい熱量だなぁ、と感心した。
あっ、でもこういうことするとまた何か琢磨が怒るんだよな、と思ったら、琢磨は特に何も反応を見せなかった。
普通にまあこういうこともあるでしょ、みたいな感じだった。
……何その感じ。えっ、何か、無いの?
そう思った時、心の中がすごくモヤモヤしてきた。というか何かイライラしてきた。ヤバイ。
怒っていない琢磨に私が怒っている。いや何で。琢磨の怒りの感情が私にうつってきたのかな?
いやいやそんな非科学的なことがあるか? まあ、あやかしさんという非科学的な存在が目の前にいるけども。
何で怒っているんだろう、私。まるで琢磨に怒ってほしかったみたいな。
いやいや、琢磨が怒るとまた空気悪くなるし嫌だよ。じゃあ何なんだ、この感情は。
モヤモヤが止まらない……うぅぅ……と思ったその時だった。
琢磨が私へ、伺うように、
「……どうした? オミソ、何か疲れているのか?」
と言うと、サヨナさんが快活に笑ってから、
「馬鹿だな、琢磨。美園ちゃんが疲れているはずないじゃないか! いつも元気で可愛らしい子だよ!」
「いやだって、何かちょっと心が重たくなったような感じになったからさ」
と琢磨が言って、えっ、琢磨だけが気付いてくれている。
何か嬉しいな、やっぱりずっと一緒にいるから気付いてくれるんだ、と思った時。
私のモヤモヤが急にスッと晴れていった。一体何だったんだろう、この一瞬の呪いみたいなヤツ。
でもまあ晴れて良かった。
それにっ、
「琢磨! 気付いてくれてありがとう! よく分かんないけどもう治ったし大丈夫だよ!」
そう言うと、何か考えているような感じになったサヨナさん。
サヨナさんは大きく息をつき、立ち上がった。
「やっぱり親密度が高いヤツのほうが分かるってことだな! 負けたよ! 琢磨! 今日のところはなっ!」
そう言って、私が言おうと思っていたお金よりも多めのお金を置いて、さっさと帰って行ったサヨナさん。
あれ、まだ食べ終えていないんじゃと思ったら、もう食べ終えていて、まあ完食しているんだったら良かった良かった、とか考えていたら、お金のことを言う時間がもう無かった。
いやそれにしても、負けたって何だろう? あぁ、料理が旨くて上手くて負けたみたいなとこかな。
あっ、今日の依頼、料理バトルだったんだっ。
危ない! でも勝てた! 良かった!
私は勢いよくバンザイをすると、それに合わせて琢磨もバンザイした。
「何それ、私を馬鹿にしているの? らしくないじゃん、バンザイなんて」
「いいじゃん、オミソと同じ気持ちを味わいたいんだよ」
「じゃあ馬鹿にしているわけじゃないんだっ」
「うん、俺はオミソと同じがいいだけ」
そう言って優しく微笑んだ琢磨。
この時、何かモヤモヤとは別の何か、変な胸の高鳴りを感じた。
もしや不整脈かっ!
……私は小学五年生にしてやっぱり老化が進んでいるようです……本物の初老のようです……。
その後。
サヨナさんがお礼にミニ神輿を担いでいるところを見せてあげると言って、私と琢磨で見た。
でも一人分サイズの小さい神輿が上下に動いているところ見ても何かなぁ、と思った。
やっぱりデッカイ和智埜神社祭礼の神輿が見たいと思った。
そんなミニ神輿の帰り道、琢磨が急に声を上ずらせながら、
「あっ! オミソ! ちょっとぉ! いいかぁ!」
とデカい声を出したので、私はそのバカっぽさについ笑ってしまうと、
「こっ、こんな時に初手で笑いだすなよっ」
と困惑しているような表情でそう言った琢磨。
でもあまりにも何か、アホの子感満載だったので、そのまま爆笑してしまうと、琢磨が、
「真剣な話、したいんだけども、いいか?」
と伺うように言ってきたので、まあ、何か知らんけどもまあいいかと思いつつ、私は笑うのをなんとか堪えた。
ちょっとした静寂に包まれた妻籠宿の街並み。
当たり前だ、もうあたりは暗くなり始めていて、観光客も皆宿屋に一旦入る時間帯だ。
というか私だってそろそろ帰らないと。
この妻籠宿はあやかしさんたちの御加護に包まれているから、他の街よりは安心だという話を聞いたことあるけども、でも夜道はやっぱり怖いと思う。
あんま時間掛けてられないなぁ、と何ならオトナとして、親としての気持ちで琢磨のほうを眺めていると、琢磨がこう言った。
「やっぱりもう我慢できない。俺のこと好きにさせてから、と思ったけどもさ、先に言って意識させてやるよ」
一体何が何やらという台詞で、コイツどんな文脈してんだ? と思っていると、琢磨が深呼吸してから喋り出した。
「俺、オミソ……いや美園のことが好きだ。ずっと一緒にいたいと思っている。サヨナなんかより、俺を選んでほしい」
……? 何が? って言おう。
「何が? 意味分かんないんだけども」
すると琢磨が溜息交じりに、
「本当ぉ?」
と呆れるように言ったので、私はムッとしてしまい、
「何だよ、何か私変なこと言った?」
琢磨は手を激しく動かしながら、
「いや告白したんだから、それに対する返答無いのかよ! 一週間待ってとか断るとかでもいいからさ! いや断られるのは嫌だけどな!」
「告白って、何、というか、えっ? 友達宣言?」
「恋人宣言だよ!」
と声を荒らげた琢磨の言葉を私は改めて反芻する。
……、……、……、これ、もしやあの例の恋ってヤツぅ? あのオトナがすると言われている恋っていうヤツぅっ?
いやでも、
「私、あんまそういうの分かんないというか。えっ、何か、手を繋いだりするの?」
琢磨は頭を抱えるような動作をしたと思ったら、即座に私のほうを向いてこう言った。
「こうなったら俺は美園に好きと言ってもらえるようになるからな! これから覚悟しておけ!」
と指差してきた琢磨に、何かバトルモノみたいな空気を感じたので、
「おう! 挑んでこい!」
と答えたわけだけども、それに対して琢磨はしょげるような顔をした。
いやだって恋愛とかまだ分からないし。
まあ琢磨のことが好きか嫌いかって話だけども、まあどちらかと言えば、友達としては別にいいけども、と思ったところで、琢磨が声を荒らげた。
「鈍感ロボットが!」
私はすかさず、
「そういう悪口っぽいの嫌! 嫌いになるよ!」
すると琢磨は叫ぶように、
「全然大丈夫だわ! こういう会話しつつも好きにさせてみせるよ! 俺との会話めっちゃ面白いと思わせてやるよ!」
「いや減点みたいなことは、やめな! 悪口っぽいヤツは減点になるでしょ!」
「オミソもどういう立場でそれ言ってんだよ!」
「なんというか、オトナ?」
「子供だよ! バーカ!」
と言って私の横を走り去った琢磨。
バカというほうがバカだし、そういうことを言うなんて本当にまだまだ子供だね、と思っていると、そのままいなくなると思った琢磨が振り返って、
「というか帰るぞ!」
と立ち止まった。
いや、
「もう勝手に琢磨一人で帰ればいいじゃん」
「暗い夜道になりかけているのにオミソ一人で帰させるわけないだろ!」
と言ってこっちに手を差し伸べているような恰好で私のことを(多分)待っている琢磨。
別にそんなこといいのに、と思いつつも、私は琢磨の近くに駆け寄って、その手とは軽くハイタッチのように叩いて、
「まっ! 琢磨が意味分からんけども帰るか!」
「意味分からせてやるからな!」
と私の手を強引に握ってきた琢磨に私は、手を繋ぎたいなんてまだ子供だねぇ、とオトナの気持ちで微笑んだ。
すると琢磨が満面の笑みを向けてきて、あらあらお子さんと思いつつも、何故か私の胸は大きく高鳴っていた。
何かイミフの緊張しちゃったな、と思いつつ、私は琢磨の手を振り払ってから、一緒に並んで帰っていった。
よく分からんが、まあいつも通り生活していれば平気だろう。
琢磨が私に向かって、
「鈍感ロボット、始まる前からボロボロだな」
と悪口を言うテンションで言ってきたので、私はここだと思って、
「全然ボロボロとかじゃないし! 人間の機微過ぎる人間だし!」
とマンキンのツッコミを飛ばすと、琢磨は笑いながら、
「やっぱりオミソのツッコミは面白いなっ! ちょっとズレているところが特になっ」
いや!
「全然ズレていないわ! 高級校長先生のカツラくらいズレてないし!」
と言ってやると、琢磨はゲラゲラと幸せそうに笑った。
本当琢磨は私のツッコミが好きなんだなと思った……あっ、好きってこういう意味ね! はいはい、私とボケ・ツッコミしたいんだったらまあしてあげましょうか! そういう好きらしいので!
(了)
・【16 サヨナさんは異性が良い】
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サヨナさんがカフェに来店し、
「さぁっ! 美園ちゃんの愛の料理! 楽しみに待ってるぜ!」
とホールの私に声を掛けてくれた。
というわけで、こっからは、と、私は厨房に入り、琢磨と一緒に料理することにした。
今回作る料理はキャベツのキムチ鍋だ。
豆苗の根元をカットし、バラバラにし、キャベツは豆苗のような細さに千切りし、豚バラ肉を入れてキムチ味の鍋で煮る料理。
さてと、早速私がキャベツを千切りにしようかなと思ったその時、琢磨が先にまな板の前に立った。
いやいや、
「琢磨は味付けのほうやって」
すると、琢磨は首を横に振って、
「俺が千切りするよ」
と言ってキャベツと包丁を持った。
えっ、
「琢磨は包丁使えないでしょ?」
「いや、もう大丈夫なんだ。俺もこれから包丁を使うよ」
「いやいや! 急に包丁とか危ないよ!」
と言うと、厨房にいた田中さんがこう言った。
「ううん、琢磨くんは時間がある時に厨房で包丁の練習をしていてね。私たちが見ている前でやっていたからもう完璧だよっ」
……! そうか! たまに琢磨が厨房の奥のほうに行くと思ったけども、そういうことだったんだ!
というか!
「何で黙ってたんだっ!」
「いいじゃん、何か練習してるって言うの恥ずかしくてっ」
「何も恥ずかしくないし!」
「でもこれで、もう、オミソに任せっきりじゃないな」
そう言ってキャベツの千切りをし始めた琢磨。
まだちょっとたどたどしい部分もあるけども、一生懸命な横顔がなんだか誇らしかった。
さてと、じゃあ私は味付けのほうをしようかな。
キムチを入れるだけでは味が締まらないので、酒、本物の味噌、コチュジャン、琢磨が固執していたおろしたにんにく、ごま油、オイスターソース、おろしたショウガ、おろしたタマネギを入れる。
さらに隠し味にすりおろしたリンゴを入れて甘みを追加することにより、辛さとの対比が生まれて、辛いのに旨くて甘みがあって、だからこそ辛いといった複雑な味になる。これでスープは完成。
そこに豚肉、キムチ、豆苗、キャベツとそしてこれは私がピーラーで薄くスライスした大根を入れて、キムチ鍋の完成だ。
大根はピーラーで薄くスライスすることにより、食材との馴染みが良くなり、また薄いので味も染みやすくなる。
という感じで、キムチ鍋を持って、サヨナさんのテーブルに出した。
「これはアツアツで心の底からアツアツになれそうだなっ! いただきます!」
そう言って、小皿にとりわけたサヨナさんは、箸で具を掴んだその時だった。
「ちょっと熱そうだな! 美園ちゃん! フーフーしてくれないかなっ!」
と優しい笑顔で甘えてきたので、どうしようかなと思う間も無く、隣に立っていた琢磨が優しくフーフーして、
「どうぞ、食べて下さい」
それに対してサヨナさんは大笑いしながら、
「いや俺は美園ちゃんに言ったんだけどもっ!」
「誰の空気でも同じはずです」
「いや全然違うだろっ!」
「足りなかったですか?」
「……はぁーーーー、もういいよっ!」
と長い溜息をついてから、優しい笑顔になって食べ始めたサヨナさん。
その長い溜息が一番冷ませそうだなと思った。
さてさて、味はどうだろうかっ。
「……んっ! キムチのピリ辛さが豚肉の脂をサッパリさせるなぁっ! キャベツと豆苗の歯ごたえもちょうど残っていて旨い! 逆に大根は柔らかくてそれがいい!」
どうやらおいしかったみたいだ。ホッと一息。
この息はあんまり冷ませそうにないかな。
サヨナさんは箸を持っていないほうの拳を強く握って、
「よーしっ! 来月の下旬の和智埜神社祭礼は盛り上げるぞーっ!」
そう言っても、あやかしさんはいざ本気の舞台には立てないよなぁ、とは思った。観光客には見えないから。
まあ水を差してもアレなので、私はそう言ったサヨナさんを盛り上げるために、小さく拍手をしていると、その手をガッと掴んできたサヨナさんが、
「美園ちゃんも楽しみに待っていてくれよな! あやかしは住民のためにやるんだから!」
「はっ、はい!」
急なことでビックリしたけども、すごい熱量だなぁ、と感心した。
あっ、でもこういうことするとまた何か琢磨が怒るんだよな、と思ったら、琢磨は特に何も反応を見せなかった。
普通にまあこういうこともあるでしょ、みたいな感じだった。
……何その感じ。えっ、何か、無いの?
そう思った時、心の中がすごくモヤモヤしてきた。というか何かイライラしてきた。ヤバイ。
怒っていない琢磨に私が怒っている。いや何で。琢磨の怒りの感情が私にうつってきたのかな?
いやいやそんな非科学的なことがあるか? まあ、あやかしさんという非科学的な存在が目の前にいるけども。
何で怒っているんだろう、私。まるで琢磨に怒ってほしかったみたいな。
いやいや、琢磨が怒るとまた空気悪くなるし嫌だよ。じゃあ何なんだ、この感情は。
モヤモヤが止まらない……うぅぅ……と思ったその時だった。
琢磨が私へ、伺うように、
「……どうした? オミソ、何か疲れているのか?」
と言うと、サヨナさんが快活に笑ってから、
「馬鹿だな、琢磨。美園ちゃんが疲れているはずないじゃないか! いつも元気で可愛らしい子だよ!」
「いやだって、何かちょっと心が重たくなったような感じになったからさ」
と琢磨が言って、えっ、琢磨だけが気付いてくれている。
何か嬉しいな、やっぱりずっと一緒にいるから気付いてくれるんだ、と思った時。
私のモヤモヤが急にスッと晴れていった。一体何だったんだろう、この一瞬の呪いみたいなヤツ。
でもまあ晴れて良かった。
それにっ、
「琢磨! 気付いてくれてありがとう! よく分かんないけどもう治ったし大丈夫だよ!」
そう言うと、何か考えているような感じになったサヨナさん。
サヨナさんは大きく息をつき、立ち上がった。
「やっぱり親密度が高いヤツのほうが分かるってことだな! 負けたよ! 琢磨! 今日のところはなっ!」
そう言って、私が言おうと思っていたお金よりも多めのお金を置いて、さっさと帰って行ったサヨナさん。
あれ、まだ食べ終えていないんじゃと思ったら、もう食べ終えていて、まあ完食しているんだったら良かった良かった、とか考えていたら、お金のことを言う時間がもう無かった。
いやそれにしても、負けたって何だろう? あぁ、料理が旨くて上手くて負けたみたいなとこかな。
あっ、今日の依頼、料理バトルだったんだっ。
危ない! でも勝てた! 良かった!
私は勢いよくバンザイをすると、それに合わせて琢磨もバンザイした。
「何それ、私を馬鹿にしているの? らしくないじゃん、バンザイなんて」
「いいじゃん、オミソと同じ気持ちを味わいたいんだよ」
「じゃあ馬鹿にしているわけじゃないんだっ」
「うん、俺はオミソと同じがいいだけ」
そう言って優しく微笑んだ琢磨。
この時、何かモヤモヤとは別の何か、変な胸の高鳴りを感じた。
もしや不整脈かっ!
……私は小学五年生にしてやっぱり老化が進んでいるようです……本物の初老のようです……。
その後。
サヨナさんがお礼にミニ神輿を担いでいるところを見せてあげると言って、私と琢磨で見た。
でも一人分サイズの小さい神輿が上下に動いているところ見ても何かなぁ、と思った。
やっぱりデッカイ和智埜神社祭礼の神輿が見たいと思った。
そんなミニ神輿の帰り道、琢磨が急に声を上ずらせながら、
「あっ! オミソ! ちょっとぉ! いいかぁ!」
とデカい声を出したので、私はそのバカっぽさについ笑ってしまうと、
「こっ、こんな時に初手で笑いだすなよっ」
と困惑しているような表情でそう言った琢磨。
でもあまりにも何か、アホの子感満載だったので、そのまま爆笑してしまうと、琢磨が、
「真剣な話、したいんだけども、いいか?」
と伺うように言ってきたので、まあ、何か知らんけどもまあいいかと思いつつ、私は笑うのをなんとか堪えた。
ちょっとした静寂に包まれた妻籠宿の街並み。
当たり前だ、もうあたりは暗くなり始めていて、観光客も皆宿屋に一旦入る時間帯だ。
というか私だってそろそろ帰らないと。
この妻籠宿はあやかしさんたちの御加護に包まれているから、他の街よりは安心だという話を聞いたことあるけども、でも夜道はやっぱり怖いと思う。
あんま時間掛けてられないなぁ、と何ならオトナとして、親としての気持ちで琢磨のほうを眺めていると、琢磨がこう言った。
「やっぱりもう我慢できない。俺のこと好きにさせてから、と思ったけどもさ、先に言って意識させてやるよ」
一体何が何やらという台詞で、コイツどんな文脈してんだ? と思っていると、琢磨が深呼吸してから喋り出した。
「俺、オミソ……いや美園のことが好きだ。ずっと一緒にいたいと思っている。サヨナなんかより、俺を選んでほしい」
……? 何が? って言おう。
「何が? 意味分かんないんだけども」
すると琢磨が溜息交じりに、
「本当ぉ?」
と呆れるように言ったので、私はムッとしてしまい、
「何だよ、何か私変なこと言った?」
琢磨は手を激しく動かしながら、
「いや告白したんだから、それに対する返答無いのかよ! 一週間待ってとか断るとかでもいいからさ! いや断られるのは嫌だけどな!」
「告白って、何、というか、えっ? 友達宣言?」
「恋人宣言だよ!」
と声を荒らげた琢磨の言葉を私は改めて反芻する。
……、……、……、これ、もしやあの例の恋ってヤツぅ? あのオトナがすると言われている恋っていうヤツぅっ?
いやでも、
「私、あんまそういうの分かんないというか。えっ、何か、手を繋いだりするの?」
琢磨は頭を抱えるような動作をしたと思ったら、即座に私のほうを向いてこう言った。
「こうなったら俺は美園に好きと言ってもらえるようになるからな! これから覚悟しておけ!」
と指差してきた琢磨に、何かバトルモノみたいな空気を感じたので、
「おう! 挑んでこい!」
と答えたわけだけども、それに対して琢磨はしょげるような顔をした。
いやだって恋愛とかまだ分からないし。
まあ琢磨のことが好きか嫌いかって話だけども、まあどちらかと言えば、友達としては別にいいけども、と思ったところで、琢磨が声を荒らげた。
「鈍感ロボットが!」
私はすかさず、
「そういう悪口っぽいの嫌! 嫌いになるよ!」
すると琢磨は叫ぶように、
「全然大丈夫だわ! こういう会話しつつも好きにさせてみせるよ! 俺との会話めっちゃ面白いと思わせてやるよ!」
「いや減点みたいなことは、やめな! 悪口っぽいヤツは減点になるでしょ!」
「オミソもどういう立場でそれ言ってんだよ!」
「なんというか、オトナ?」
「子供だよ! バーカ!」
と言って私の横を走り去った琢磨。
バカというほうがバカだし、そういうことを言うなんて本当にまだまだ子供だね、と思っていると、そのままいなくなると思った琢磨が振り返って、
「というか帰るぞ!」
と立ち止まった。
いや、
「もう勝手に琢磨一人で帰ればいいじゃん」
「暗い夜道になりかけているのにオミソ一人で帰させるわけないだろ!」
と言ってこっちに手を差し伸べているような恰好で私のことを(多分)待っている琢磨。
別にそんなこといいのに、と思いつつも、私は琢磨の近くに駆け寄って、その手とは軽くハイタッチのように叩いて、
「まっ! 琢磨が意味分からんけども帰るか!」
「意味分からせてやるからな!」
と私の手を強引に握ってきた琢磨に私は、手を繋ぎたいなんてまだ子供だねぇ、とオトナの気持ちで微笑んだ。
すると琢磨が満面の笑みを向けてきて、あらあらお子さんと思いつつも、何故か私の胸は大きく高鳴っていた。
何かイミフの緊張しちゃったな、と思いつつ、私は琢磨の手を振り払ってから、一緒に並んで帰っていった。
よく分からんが、まあいつも通り生活していれば平気だろう。
琢磨が私に向かって、
「鈍感ロボット、始まる前からボロボロだな」
と悪口を言うテンションで言ってきたので、私はここだと思って、
「全然ボロボロとかじゃないし! 人間の機微過ぎる人間だし!」
とマンキンのツッコミを飛ばすと、琢磨は笑いながら、
「やっぱりオミソのツッコミは面白いなっ! ちょっとズレているところが特になっ」
いや!
「全然ズレていないわ! 高級校長先生のカツラくらいズレてないし!」
と言ってやると、琢磨はゲラゲラと幸せそうに笑った。
本当琢磨は私のツッコミが好きなんだなと思った……あっ、好きってこういう意味ね! はいはい、私とボケ・ツッコミしたいんだったらまあしてあげましょうか! そういう好きらしいので!
(了)



